セッション:[G-1] Design Thinking

スピーカー:Jeff Patton

■人気の高いJeffのセッション

Jeff Pattonさんといえば、知る人ぞ知るUXの大家です。ユーザーストーリーマッピングという手法を編み出した彼のセッションは、Agile Conference(Agile2011)でも定員が100人を超える会場に、さらに立ち見があふれるほどの人気の高さ。(*1)
「何を作るべきか」というエンジニアリングの根本に焦点を合わせた彼のお話は、非常にためになります。

日本にも何回か訪れており、ワークショップやプロダクトオーナー研修などでお世話になった方も多いはず。Scrum Gathering Tokyo 2011でも登壇していましたね。すごく楽しいワークショップでした。

今回は、Design Thinking、すなわちデザイン思考についてです。

 

■速度も安定したリリースも価値そのものではない

すばらしい講演でした。言葉はなめらかに舌も軽やかに、しかし内容は鋭く熱い。
彼が指摘するのは、アジャイルには欠けているプロセスがあるということです。そして、それを補完し、先に進む道を教えてくれました。本日もっとも私に刺さったセッションでした。

ご存知のように、アジャイルでは不確実さを許容し、価値のあるプロダクトを素早くリリースすることを可能にします。Jeffはこれを一刀両断します。いわく、そんなものに価値はない、と。

彼は、コンサルタントをしたある会社を紹介しました。その会社は、安定したベロシティと品質を持ち、動くプロダクトを継続的にリリースし続けていました。誰が見ても賞賛するであろうレベルでアジャイルを実践していました。しかし、その会社のメンバーは、自分たちは失敗していると感じていました。

Jeffは言います。
速度は価値そのものではない。安定したリリースもまた価値そのものではない。

 

■問題を解決し世界を良くすること

では、何が価値と呼ぶに値するのでしょうか。

人々は問題を抱えている。そしてある時、ソリューションを思いつく。それを実現し、ハッピーになる。それは、Change the world ―世界を変える。

問題を解決し、世界を良くすること。
これが、Jeffの言う価値です。そうでないなら、もし世界を良くしないなら、どれだけ速く、どれだけ安定して動くプロダクトをリリースしても何にもなりはしない、と。

 

■研磨され成長するソリューション

では、どうすればよいのでしょうか。

ここで「デザイン思考」が出てきます。ティム・ブラウンの『デザイン思考が世界を変える』という本が入手しやすく、よい入門書でしょう。

デザイン思考は、言葉にすれば難しいプロセスではありません。(Jeffいわく、常識こそがもっとも難しいことなのです!)

  1. 問題を深く理解する。
  2. たくさんのソリューション案を出す。
  3. プロトタイプを作り、検証する。

そしてこれらは、ウォーターフォールではないので何度も何度も繰り返され、ソリューションは研磨され、成長するのです!

 

■バランスのとれたチームから価値が生まれる

Jeffは、バランスのとれたチームが重要だと言います。バランスのとれたチームは、次の3つのロールから成ります。

  • 価値について知っているロール
  • より使いやすいデザインについて知っているロール
  • 実現可能性について知っているロール

これらのロールから成るチームが共創造(co-create)することで初めて、価値を生む事ができるのです。

 

■オフィスを離れ、問題の現場へ

問題の現場が重要であるとも、Jeffは言います。問題を深く理解するためには、チームがオフィスを離れ、問題が起きている、まさにその現場に赴くことが必要です。そうすることで、問題をより深く理解し、本当に価値あるソリューションを生むことができるのです。

 

■赤い薬と青い薬 ―2つの選択

最後のスライドには、赤い薬と青い薬が映っていました。映画『マトリックス』の有名なシーンです。
― 残酷な真実を知り、世界を変えるために挑戦するならば、赤い薬を飲みなさい。

つまり、今まで作ってきたプロダクトには価値がないことを認めなさい。さもなくば、今までどおりでいればよいでしょう。安定したベロシティ、安定したリリースを続ければよいでしょう。青い薬を飲んで、安らかな夢の中で眠り続ければよいでしょう、と。

Jeffの言葉は、鋭く私を貫きました。世界を変えるための挑戦、未知の可能性・未来を求める挑戦は、言うまでもなくリスクと失敗がついてまわるでしょう。失敗と学びの先にある、虚飾ではない本当の価値を見つめ続け、走り続けること、その勇気はどこから出てくるのでしょうか。

続く瀬谷さんのセッションがヒントを与えてくれるかもしれません。


参考


公認レポーター 柴田 昌洋