巷で噂のリーンスタートアップ。企業内リーンスタートアップ勉強会は、リーンスタートアップの中でもイントレプレナー(企業内起業家)をターゲットに絞り、組織の中でのスタートアップについて参加者同士で学び合う場です。

第8回の今回は、ライトニングトークを中心に展開、6人のトーカーが六者六様のリーンスタートアップを語ります。そんなリアルがぶつかり合う勉強会の様子をお伝えします。

 

■開催概要

企業内リーンスタートアップ勉強会については、こちらをご覧下さい。

開催概要

プログラム

  • 導入
  • LT大会(1人10分)
    • 「Startup Weekendでやったこと」 さん
    • 「リーンスタートアップマニフェストをつくってみる」 納富さん
    • 「Reliability[確度]」 田野さん
    • 「なぜ、受託開発会社がLeanStartupを言うのか」 市谷さん
    • 「リーンスタートアップ×野球」 中川さん
    • 「リーンスタートアップ、はじめました」 芳賀さん
  • (休憩)
  • ディスカッション(40分)
    テーマ「企業内リーンスタートアップ・マニフェストを考える」
    • 自分の組織・チームのどういう問題を、リーンスタートアップでどのように変えたいか。
    • そのチームは何を優先するチームなのか。
  • 振り返り&次回の幹事決め
  • 懇親会

 

■参加レポート

※企業内リーンスタートアップ勉強会では、ビジネス要素や機密に関する情報などデリケートなテーマを取り扱うため、その点を考慮した形でレポートしています。

第8回企業内リーンスタートアップ勉強会は、DeNA さん主催で渋谷ヒカリエで行われました。勉強会には多くの企業の方が参加しているため、開催場所は毎回変わります。勉強会を通じていろいろな会社の中に入ることができることも、勉強会の魅力の一つになっています。

 

オープニングトーク〜世界的なリーンスタートアップのワークショップが日本上陸

まず最初に、毎回恒例の和波さんのオープニングトークがありました。

今回で8回めとなった企業内リーンスタートアップ勉強会ですが、日本では企業内スタートアップが難しい状況になってきたため、イントレプレナー(企業内起業家)に特化した学びの場の提供を目的として発足しました。和波さんは、この勉強会を始めとしたさまざまな活動を通じて、ここ最近はイントレプレナーが育ってきた実感を持たれています。

今回のオープニングトークは「lean startup machine」というイベントの紹介でした。

lean startup machineは、3日間に渡ってリーンスタートアップを実践から学ぶための、世界中で開催されているワークショップです。
日本開催に向けて、現在、和波さんが準備をしています。イベントでは、数十人のメンターがリーンスタートアップ実践をみっちりサポートしてくれるため、参加者は3日間で、リーンスタートアップのプロセスをしっかりと習得することができます。来年開催予定とのことなので、続報をお待ちください。

 

Startup Weekendでやったこと 〜関さん

ライトニングトーク一発めは「Startup Weekendでやったこと」、さんの発表です。
Startup Weekendとは、金曜日夜から日曜日の54時間をかけて、チームを組んでスタートアップを行うイベントです。世界中320カ所以上で開催されていて、日本でも各地で開催されています。

1日め、まず最初にやることは、ピッチ(参加者全員の前で1分間、自分のビジネスプランを話す)です。ピッチの後、10分間のQ&Aをはさみ、いいと思うビジネスプランに投票をしてビジネスプランを絞っていきます。これを2回繰り返した後に、3日間を共に過ごすスタートアップチームを決定します。その後は懇親会で、飲み過ぎてしまい2日めの朝にさっそくメンバーがいない!なんてアクシデントもありました。

2日めからは、チームごとにそれぞれ自由にスタートアップの準備をします。サービスのビジネスプランを練り、それに基づいてMVPを作成して、最終日のプレゼンテーションへとつなげます。さんのチームでは、さんがプロジェクトマネージャ役として3日間の活動をリードしました。中でもビジネスモデル作成において、メンバーに事前に参考資料を送付したり、ビジネスモデルキャンパスから必要なものを抽出してアレンジするなど、さまざまな工夫を凝らして効率的に準備を進めました。
その結果、さんのチームは見事に優勝しました。ビジネスモデルの評価は高く、実際にスタートアップする場合は投資をしてくれるパートナーまで見つけることができました。

そんなさんは、スクラムプロダクトオーナー勉強会を開催し、Startup Weekendで使ったプラクティスを紹介しています。

来る11月4日には、スクラムプロダクトオーナー勉強会で実践した半年分のワークショップを体験できるイベント「POStudy Conference 2012」も開催予定で、ランチセッションでは、今回のライトニングトークで語りきれなかったStartup Weekendの裏側をお話しするそうです。さんのお話を直接聞くチャンスなので、興味のある方は要チェックです。

 

リーンスタートアップマニフェストをつくってみる 〜納富さん

続いて「リーンスタートアップマニフェストをつくってみる」、納富さんの発表です。
今回の勉強会のテーマが「企業内リーンスタートアップ・マニフェストを考える」なので、前もってマニフェストについてまとめたそうです。

マニフェストのようにまとまったものがあると理解しやすくなりますが、同時に、それありきになってしまい、当事者が深く考えないようになる危険性もはらんでいます。従って、当事者が悩んだ時に振り返る材料として使えるものを、実際に痛みを伴って経験した当事者自身の手で作っていきましょう、というのが納富さんのメッセージでした。

 

Reliability[確度] 〜田野さん

3人めは「Reliability[確度]」、田野さんの発表です。
“What is LeanStartup” & “Why LeanStartup” について、Developer目線での考察です。

これまでDeveloperとして、最初はウォーターフォール、次にアジャイル、そしてリーンスタートアップに出会いました。ビジネスにおける不確定要素が増加していく時代の流れに合わせるように、それらの手法も、計画重視から適応重視、成功前提から失敗前提へと変化していきます。田野さんは、その流れを分かりやすく表現するために、ウォーターフォールとアジャイルとリーンスタートアップを対比させた考察を展開しました。

“What is LeanStartup” & “Why LeanStartup” の考察という難しい挑戦のため、Twitterのタイムラインやライトニングトーク後のQ&Aにも波及して盛り上がりました。
挙がったトピックの一部をご紹介します。

  • ウォーターフォールとアジャイルとリーンスタートアップを比較する必要はあるのか。
  • ウォーターフォールとアジャイルは納品が前提、リーンスタートアップはそうではない。
  • 納品する以上、成功が前提になるのではないか。
  • アジャイルとリーンスタートアップは一緒に考えてもいいのではないか。
  • 何をもって成功かは難しい。
  • 存続の条件に従って適応していこう(スタートアップは銀行の残高がなくなるまで存続する)。

というところで、続きは懇親会で!となりました。

 

なぜ、受託開発会社がLeanStartupを言うのか 〜市谷さん

4人めは(発表の流れ的に)逆風の中「なぜ、受託開発会社がLeanStartupを言うのか」というタイトルで、市谷さんの発表です。

市谷さんが所属する永和システムマネジメントは、受託開発をメインとする会社です。受託開発では、プロダクト自体の価値とは別に「契約」という終了条件が存在するため、アジャイルやリーンスタートアップの実践は難しいと言われています。そんな受託開発の会社が、なぜリーンスタートアップを実践するのかについての考察でした。

受託開発においてアジャイル開発を実践していると、さまざまな誤解が生まれます。
「え?バックログに積んだのは全部やるんですよね?」
「アジャイルなら、すぐに画面をたくさん作れるんでしょう?」
というように、アジャイルを「安い・早い」の牛丼屋のように思われがちです。

では、受託開発においてアジャイルで成し遂げたいこととは何でしょうか。
その答えは、アジャイルマニフェストには明確に書かれていません。ビジネス環境は常に変化していくため、誰もが答えを持っていない世界で答えを出していかなければならないのです。

リーンスタートアップは、なぜアジャイルを実践するのかという問いに対して1つの答えを示しています。リーンスタートアップは、答えを持っていない世界の中で何を検証するのか仮説を立て、起きたことから学び、次の行動につなげることが根幹にあるからです。

しかし、適用ケースと分かりやすいキーワードには気をつけなくてはいけません。


実践する側が考える方向は、Why→How→LeanStartupですが、


キーワードをもとに相手に説明すると、LeanStartup→How→Whyとなってしまうからです。
考え方やプロセスを適用する場合、なぜ適用するのか(Why)とどのように適用するのか(How)を明確にし、理解してもらうことが大事です。

「なぜ、受託開発会社がLeanStartupを言うのか」、それは「普通にソフトウェア開発をするために必要なことだから」です。

 

リーンスタートアップ×野球 〜中川さん

続いて「リーンスタートアップ×野球」、中川さんの発表です。

中川さんは大の野球好きで、日本なら阪神、大リーグならアスレチックスの大ファンです。
中川さんが初めて参加した第6回企業内リーンスタートアップ勉強会で、和波さんが『マネー・ボール』という映画を紹介しました。『マネー・ボール』は、大リーグ・アスレチックスのビリー・ビーンGMが、セイバーメトリクス(統計学をもとに分析をして選手の評価や戦略を考える手法)を用いてアスレチックスを強くしていった実話をもとにした映画です。

中川さんは、リーンスタートアップの理解にこの『マネー・ボール』が大きく役立ったため、その喜びを存分にライトニングトークで語りました。

 

リーンスタートアップ、はじめました 〜芳賀さん

最後は「リーンスタートアップ、はじめました」、芳賀さんの発表です。

芳賀さんの会社では、積極的にスクラムに取り組んでいます。しかし、チームや組織が大きくなるにつれ、組織や環境に起因した問題が生まれ、うまくいかないことが増えていきました。

それら問題の解決策がリーンスタートアップにあったため、「リーンwithスクラム」(リーンスタートアップとスクラムの組み合わせ)という形でリーンスタートアップを適用しました。スクラムのイテレーションサイクルとリーンスタートアップの構築-計測-学習のサイクルを組み合わせることで、無駄・無理・ムラがなくなり、チームがうまくまわり始めました。
この新たな取り組みは、現在も継続して拡大中です。

 

振り返り 〜何を求めて参加したのか

当初は、ライトニングトーク後にディスカッションの予定でしたが、ライトニングトークが盛り上がりすぎて時間が足りなくなったため、そのまま最後の振り返りに入りました。

和波さんが、初参加の皆さんに「何を求めて参加したのか」と問いかけました。

初参加者1:
紹介してもらって参加しました。新規事業を担当していますが、イントレプレナーといわれる人達が、どんなことを考えてどんな活動をしているのかを知りたくて参加しました。

和波さん:
これまで勉強会を続けてきて、会社や業種は違っても、企業内スタートアップにおける悩みの根底は共通していることが多い印象です。必ず、それぞれの環境で役に立つ事例を持つ方がいるので、勉強会やその後の懇親会を通して、ヒントを持ち帰ってください。
勉強会を繰り返すことでベストプラクティスが少しずつ蓄積してきましたが、まとめていないので、どこかでまとめたいですね。

初参加者2:
紹介してもらって参加しました。エンジニア職なので、アジャイルから入ってリーンスタートアップに興味を持ちました。リーンスタートアップを知ったのは最近ですが、ビジネス側の要求と開発をもっと上手にコネクトしたいと思い、そのヒントを探しに来ました。

和波さん:
アジャイルもリーンスタートアップも、実践するタイミング、説得するタイミングがつかみにくいです。それは、誰もがいいものだとは分かっていても、さまざまな制約条件によって組織の中で実践していくことが難しいからです。
例えば、株式上場企業の場合、起こしたい新規事業の価値と株主に提供する価値の二つを抱えながら組織を舵取りする必要があるため、必然的にスタートアップの難易度は高くなります。
でも、この勉強会の参加者には、そんな環境でうまくやるコツを知っている方がいます。懇親会の価値が大きい勉強会なので、ぜひ探し当ててください。

 

まとめ 〜門は常に開かれている

第8回企業内リーンスタートアップ勉強会では、ライトニングトークによって、いろいろな視点でのリーンスタートアップを考える機会となりました。
今回の勉強会だけでも、内製と契約、開発とビジネス、チームとプロダクトオーナー、ウォーターフォールとアジャイルとリーンスタートアップなど、多くの考える軸が存在します。和波さんの言葉にもありましたが、このあたりをまとめていくことが必要な時期なのでは、という印象を受けました。

冒頭にも触れましたが、勉強会の性質上、WhatよりWhyにフォーカスしてレポートしました。このレポートを読んで、リーンスタートアップへの興味、「これどうなんだろう?」や「こういう時、どうしたらいいの?」という疑問を持たれた方は、ぜひ勉強会に参加してあなたの想いをぶつけてみてください。
門は常に開かれています。


公認レポーター 及部 敬雄