Agile Japan 2016 セッションC-4
- セッションタイトル:発注側も変化してもっとアジャイルを~3年間のアジャイル開発~
- スピーカー:
- 川端 光義 氏(株式会社アジャイルウェア)
- 亀本 達也 氏(環境機器株式会社)
- レポーター:砂田(執筆一覧)
本セッションは、事前配布されたプログラムタイトルから「発注側も変化してもっとアジャイルを~3年間のアジャイル開発~」に変更して発表されました。
セッションを担当するスピーカーお二人の関係は、なんと受注者と発注者だそうです。アジャイル開発のキモは顧客を巻き込むことにある……。まさにAgile Japan 2016のテーマ「あなたとつくるアジャイル」にふさわしいペア発表のセッションでした。
息のあった漫才コンビのようなテンポよいやりとりに、会場は終始笑顔や笑い声が絶えませんでした。
差別化の武器としてのIT投資とそれを支える開発スピード
発注者の環境機器さんは業務用防虫資材専門商社、ITに投資して他社との差別化をはかっているそうです。ITを駆使することで仕事自体をつくり出せることを考えると、結果として安い投資になるんだとか。その差別化の武器となるITシステム開発の一部を担っているのが、アジャイル開発を生業とするアジャイルウェアさん。開発を依頼している企業で唯一、アジャイル型の開発を行う企業だそうです。
要件を伝えてから3日でステージング環境に新しいソフトウェアがリリースされ「触ってみてください」なんてことも。今までの開発ではあり得ないスピードを目の当たりにして、亀本氏は非常に驚いたそうです。
スピード感のある開発の進め方は、次の方針にも表れています。
- 納品物:動くシステムそのもの
- 不要なもの:設計書、仕様書、マニュアルなどのドキュメント類
アジャイルソフトウェア開発宣言の「包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを」を実践して、変化への対応とスピードを重視した開発を行っていることがうかがえます。もちろん開発者の勝手な判断ではなく、発注者と受注者の信頼関係が前提条件にあることは言うまでもないですが。
他にも、受発注者間のコミュニケーションにSlackを活用するなど、筆者が知る受発注者の関係では、ちょっと考えられないようなチャレンジングな試みを実践していました。筆者の現場では、エンドユーザにお役所的なところもあり、それなりにお堅くて実績のある手法が求められるので、発注者とのやり取りはいまだにメールと電話です。開発チーム内や社内の開発者同士でSlackを使っている話はよく聞きますが、受発注者間で使っている話は今回初めて聞いたかも……。
やってみて分かったこと
アジャイル開発を実践してきたこの3年を、発注者と受注者それぞれの立場でふりかえり、これからのアジャイル開発にはなにが必要なのか?お互いにとって、よりよいものにしていくにはどうしたらいいのか?を話してくれました。
発注者は専任をつくる覚悟を
発注者という立場でアジャイル開発に参加して感じたメリット、デメリットを亀本氏は次のように話しました。
メリット
- 仕様変更への対応力が高まった(ビジネスが止まらない)
- やりたいことを実現するまでのスピードが速くなった
- 品質は維持・向上している(CIサーバ、テスト自動化などの効果)
デメリット
- 初版リリースは本当にシンプル過ぎる(特に見た目が)
- 発注者が開発に巻き込まれるので相当の覚悟がいる(専任をつくれないならやるべきではないかも)
- それなりにロスがある(仕様書などのドキュメントがないため、開発途中で時間が空くと再開コストが大きい)
この中で特に印象的だったのは、「
さらに亀本氏は、開発者との対面のコミュニケーション、顔が見える信頼関係など今後の課題について話し「
もっとアジャイル開発に適した契約を
受注者である川端氏は、アジャイル開発の課題を次のように話しました。
- 大規模開発
- 全てが終わるのがいつになるのか
- 発注側のボトルネック
- 人に依存する
- どのような契約でうまくいくのか
特に訴えていたのは「
川端氏は、従来型の請負契約や準委任契約の特徴や問題点を踏まえたうえで、アジャイル型の開発では「短期請負契約」にすることで、発注側と受注側で開発時のリスクを分担して、双方の立場でモチベーションを維持しながら開発を進められるのではないか?と考えたそうです。
発注側
- リリース単位で完成が保証される
- 機能追加、変更がしやすい
- 発注側のペースで発注が可能
受注側(ベンダ側)
- 直近のリリース分だけ要件を詰めればよい
- 早く完成するほど儲かる
- 想定外の問題が多く出ると儲からないが局所化される
- 瑕疵担保責任がある(品質の意識が高くなる)
- 要員計画が難しい
筆者もソフトウェア開発の契約では少しばかり痛い思いをした経験があります。これは本当に長年(永遠?)のテーマだと思います。アジャイル型の開発をするうえで絶対に避けられないテーマでもあるので、大変興味深く聞かせてもらいました。
最後に…
アジャイル開発を実践することで、発注者と受注者が手を取り合って新しい価値をスピーディーにつくり出せるという事例に、ひよこアジャイラーの筆者は、とても勇気づけられました。また、このようにどっぷりとアジャイル開発を実践している人にとっても、やはり契約というのは大きな課題なんだなと親近感も湧きました。
筆者も、昨年くらいからソフトウェア開発の契約について勉強しており、新しい契約のカタチを模索中だったので、
最後は、スピーカーのおふたり、川端氏、亀本氏のすてきな笑顔の写真で締めたいと思います(セッションの間中、ずっとこんないい雰囲気でした)。
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