Agile Japan 2015 A-4

「気持ち良く使ってもらうためには、このプロセスは必然だ」
横塚氏の放ったこの言葉は、確かに会場を奮わせた。

日本企業として、この未来を見据えたときにやらなければならないこと、やるべきことは何か。
パネリストである横塚氏、誉田氏、宮田氏にモデレータの森崎先生を交え、延長を重ね約2時間におよんだパネルディスカッションは幕を閉じた。本稿ではこのパネルディスカッションを通して発せられた「熱」をお伝えする。

アジャイルに何を求めたのか

パネリストの方々からは、始終「アジャイル開発で時代を変える」という覇気が伝わってきた。

「欧米流マネジメントが入った結果、SEとお客様が対立する関係になってしまった」
IPA/SECのデータを見ると、米ではITエンジニアの72%はお客様側にいる。日本では25%しかお客様側にはおらず、75%のエンジニアが契約の鎖に縛られている。宮田氏はこの状況から、助け合いが自然と生まれていた、いい時代(’79頃)へと戻したいと語った。

一方、誉田氏は「技術の衰退が早いので、小回りが利く開発プロセスとしてアジャイルを採用した」と語った。
しかし日本で「アジャイル」の言葉を出すと、どこからか必ず「品質はどうするのか?」という疑問が出る。品質を保証するために「開発スプリント3回につきリリーススプリントを1回はさむようにした」と誉田氏は続けた。
リリーススプリントとは、開発スプリントの結果を整理し、納品可能であることを保証するための期間だ。アジャイル初心者であっても、この方法で実施していけば大体うまくいくことが経験則として判ったからだという。

文化を変えるということ

Agile Japan 2015 A-4

しかしながら、アジャイルに限らず新たな文化を醸造するのは簡単なことではない。

責任があるから、マネジメントが難しくなったから、自分の仕事を否定されたように感じるから。理由こそさまざまであるが、抵抗勢力は少なからず現れる。この抵抗勢力はミドル層から現れやすいとパネリストは口を揃えた。
そんな抵抗勢力への対処方法として、2つの方針が掲げられた。

「教育」と「容認」
過去の経験を後継者へと伝えるように「教育」をしなければ変化に順応できない。「対応できる体力をつけなければ、5〜10年後に潰れるんだよ」と宮田氏は語った。

横塚氏と誉田氏は揃って「容認」の態度を取っていた。
「相撲というスポーツをずっとやってきた組織に、いきなりラグビーやりましょうと言っているようなものだ」と横塚氏は語った。全く違うゲームなのだから、説明しても仕方がない。だから、相手にしないのがよいのだ、と。議論をする余裕があるなら、ちょっと仲のいい数名のチームでスモールスタートを切った方が、会社の中は変わっていくのだと横塚氏は続けた。

「説明しても仕方がない。頭がそうなっているのだから、変わらない。そういう人は、周りがすべて変わったときに変わる」と誉田氏も語っていたところに、文化を変えることの大変さを感じた。

変革を起こすために、どこから着手すればいいのかという問題がある。「千里の道も一歩から」とはよく言うが、その一歩目をどこにおけばいいのか。
パネリストが挙げた「一歩目」は以下の3点だった。

  • アジャイルの理解があるお客様とのプロジェクト
  • WEBサービス
  • プロジェクトリーダーがやろうと思ったとき

「初めてやるわけだし、相当なリスクへの覚悟が必要です。そういうエンジニアだけが生き残り、ほかは淘汰される」「今の給料を10年後もそのままではもらえないだろう」
横塚氏、宮田氏の言葉が「誰でもできる」を目指す道に警鐘を打ち鳴らした。

「協働する」という姿勢

Agile Japan 2015 A-4

「今までは要件を引き算してばかりだった。アジャイルをやるようになって『時間あるんですけど何やったらいいですか?機能を追加できますが』と聞いてくれるようになった」
疲れてこれ以上できないから、定時で帰るようになる。と誉田氏は語った。ウォーターフォールではみんなが帰ってから「じゃあやるか……」となるのに、と。「これを体験すると、アジャイルでやった方がいいと思う」と誉田氏は続けた。

パネリストの方々に共通していたのは「協働する」という姿勢だ。
横塚氏は「1人1人がプロじゃないと成り立たない」と、誉田氏は「適材適所はやっぱりある」と、宮田氏は「みんなで支えあって、助け合ってやる」と語った。

1人でできることには限界がある。あのお客様と、あの協力会社と、あの部長と、あのリーダーと、あの後輩と、自分が「協働」できるまで「まだ」少し時間がかかるかも知れない。

もし、このパネルディスカッションの「熱」が少しでも広く、早く読者の方へ伝播したなら。成功者たちが語った夢のような現実は、必ず私たちにも訪れる。
少なくとも、筆者はそう信じている。


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