2010年2月22日東京銀座で、株式会社ニッポンダイナミックシステムズの主催による「ビジネス価値を高める『要求開発』セミナー~要求開発宣言から実践へ」が開催されました。同セミナーは2009年9月30日に行われた要求開発セミナーの第二弾で、要求開発を理論と実践の両面から推進する匠Business Placeの萩本順三氏とニッポンダイナミックシステムズの企業改革への取り組みを紹介するものです。

ニッポンダイナミックシステムズが要求開発を用いた企業改革を始めてから1年が経過したこの日、どのような成果が得られたのか、また今後どのような方向に進んでいくのか、要求開発企業改革の最前線に立つ社員の方々、そして来場者の方々を交えて熱い議論が交わされました。

パネルディスカッション「要求開発。未来に向けて」

本セミナーの後半は萩本氏とニッポンダイナミックシステムズの皆さんによるパネルディスカッションでした。第一部と第二部に分けて、今回は第一部の模様をお伝えします。

はじめての要求開発はビジネス見える化から

 

萩本:パネラーの皆さん、まずは要求開発の事例から紹介していきましょう。

丸山:私は要求開発を会社で初めて業務で実践しました。2009年6月くらいから約半年、匠Business Placeの牛尾さんと基本設計の支援を行いました。要求開発を初めて数ヵ月と手探り段階で課題もあったのですが、同時に手応えもありました。要求開発といっても受託開発の案件だったので、まずSIerさんに要求開発を説明するところから入りました。反応は良かったのですが、その案件全体で使うには難しいところがあったので、可能な範囲でやらせてもらうということになりました。

萩本:どのようなことに挑戦したのでしょうか。

丸山:ビジネスの見える化を行いました。ドキュメントの補足として図を描くといった程度のことではなく、モデル中心で、ビジネスの全体像が直感的に一覧できるようなものです。自分自信の業務理解がものすごく進みましたし、新しいメンバーへの引き継ぎもスムーズになりました。システム開発のチームにもビジネス視点が伝わり、チーム全体が一皮むけたように思います。

萩本:モデル中心で見える化をしたのが印象的ですね。要求開発を導入しにくい案件でしたが、丸山さんが説得し、最後は要求開発についての講演をする機会までいただきました。

厳しい時代だからこそ要求開発

萩本:次に田谷さんいかがでしょうか。

田谷:不景気の昨今エンドユーザーさんの売り上げが下がっています。担当メンバーの元気もなくなってきていましたので、要求開発を武器に元気を取り戻そうという営業をしています。今まで回れていなかったユーザーさんも、要求開発で掘り起こそうとしています。ユーザーさんのところで、「こういう厳しい時代だからこそ、ニッポンダイナミックシステムズは一歩踏み出しました」と言えることがうれしいです。おかげでお話を聞いてもらうことができ、「よくやっている」と言ってもらえました。

 

要求開発は実践して身につける

萩本:向中野さんいかがですか。

向中野:私も田谷さんと一緒に営業に行きました。匠Business Placeの牛尾さんから講義を受けて、開発の各局面でどんなドキュメントを作成すればよいかを学び、どんな営業をしたらいいのか試行錯誤しています。実際に企画を立ち上げて、要件定義をするところまでを提案する中で、要求開発がどのようなものかわかりつつある状態です。

萩本:要求開発は実際のビジネス価値を重視するので、ユーザーの求めているものを掘り下げて考えます。向中野さんの案件はあるサービスの活性化支援だったのですが、大事なのはオープンエンジニアの育成ではなく、要求開発のできる人材の育成であることが見えてきました。クローズとの世界でもオープンの世界でも両方要求開発的な人材が必要とされていることが明らかになってよかったと思います。

 

パッケージ開発での要求開発

萩本:次に佐伯さんお願いします。

佐伯:私はパッケージの開発を担当しています。昨今のパッケージ開発では、法改正などに伴う細かい要望に、スピード感をもって応えていく必要があります。長年パッケージを作り込んできた知識は持っていますが、いざビジネスとして広げようとすると、人数を増したからといって対応しきれないもどかしさがありました。ここ半年間、要求開発を使ってパッケージのモデル化を行い、価値を見える化しようとしています。

 

要求開発は大阪でも盛り上がっている

萩本:ありがとうございます。今日は大阪からもパネラーがいらしています。大阪エヌデーエスの楠本さんです。

楠本:大阪エヌデーエスではでは、要求開発アライアンス西日本の活動をしています。最近は、要求開発フォーラム西日本2009というイベントを行い、理事の席もなくなるかもしれないという大盛況の中で開催しました。また、要求開発アライアンス西日本というコミュニティを立ち上げ、勉強会を行っています。目的と手段の連鎖で言うと、こうした活動は要求開発で西日本を活性化したいという目的の手段になっています。また、組み込み分野でもET WESTという展示会で活動をしています。ゆくゆくは組み込みにも、要求開発を取り入れていければと思っています。さらに、最近刊行された『EM WEST』というIT系のオープンペーパーにも活動の様子を寄稿しています。ぜひ読んでみてください。こうした活動を通して会社のブランディングを確立し、案件にもつなげてきたいと考えております。こうした場での活動は、社内教育としても役立っています。

要求開発は斜めに切るアプローチ

萩本:さて、実際の要求開発活動の中で次にどういう課題が見えてきましたか?丸山さんお願いします。

丸山:大手SIerさんに要求開発のお話をしても、すぐ全体で実践するのは難しいところがありました。受託開発の階層構造そのものが課題なのかもしれません。私個人としては、まずはユーザーさんとこたつモデルを形成しやすい雰囲気を作り、要求開発による実績を見せてリベンジしたいです。

萩本:要求開発のお話をさせてもらえるくらいユーザーさんに入り込めたのは大きな成果です。重要なのは、制約がある中でいかにユーザーに価値を提供できるかです。説得力とチャレンジ精神が十分だったと感じています。

丸山:難しいところは置いておいて(笑)、できるところから挑戦しました。

萩本:今の受発注は、システム開発を縦に切る構造になっています。納期と仕様が決まったらそのまま進みます。これに対して、要求開発はシステム開発を斜めに切るアプローチです。ベンダーさんにはとっては厳しいところもあるかもしれませんが、ビジネスの活性化には重要な意味を持ってきます。ほかに何かありませんか。

 

 

要求開発には覚悟が必要

田谷:要求開発の成果は、営業の数字から見るとまだまだです。技術の人間も自分を売り込むという意識が必要だと思いますが、営業を踏み台にしてジャンプするくらいになってきていると感じています。課題はこの試みを継続することです。私個人としては、コンサルティング能力がちょっと上がったかもと感じています。

萩本:自分も実践して要求開発を盛り上げていく覚悟が大事です。

佐伯:私はパッケージの開発で主に会社の中での仕事でしたが、担当するパッケージのどこにビジネス価値があるのかを攻めることができました。パッケージ開発にあたっては、緩急が大事です。ビジネス価値を意識することで、その機能を本体に入れるか取捨選択することができました。

萩本:結果イメージの予測ができるようになってきたということですね。見える化はそのためのものです。これを作って何やるの、ということにならなくなります(笑)。

佐伯:そこに至るまでの手探り感が大変でした。要求開発では「As-is(現状)」と「To-be(将来像)」を常に意識しますが、これからもあるべき姿を描いていきたいです。

萩本:ところで、大阪での要求開発は大きく活性化しているようですが、私の皆さんとお会いする機会は3回のうち2回が東京で、大阪は1回だけです。月に1回だけなのに、どうしてこんなに活性化ができているのですか。

楠本:今話そうとしていたことと違う質問が来て戸惑っていますが(笑)、月1回しかないという覚悟だと思います。その1回に対して準備をし、ゴールイメージを持って取り組んでいます。

萩本:私の出番は少ないほうがいいのかもしれませんね(笑)。

楠本:萩本さんの出番が多いという体験をしたことがないのでわかりませんが(笑)、少ない回数でも価値があるものを見いだすように準備することが大事だと思います。

萩本:ためになるお話をありがとうございます。

要求開発はソリューション指向

萩本:丸山さんと一緒に要求開発の案件を手がけた牛尾さんはどんな感想を持っていますか。

牛尾:受託開発ということで、どんな機能を作るかという話はない状態だったので、要求開発を適用するのは難しいと思われましたが、横で見ていると丸山さんはかなり要求開発を実践できていました。ソリューション指向でいかにお客さんに合ったものを作っていくか、お客さんが悩んでいることをどう解決するか、理屈ではなく飛び込んで踏み込んで実践していくのが偉いと思いました。要求開発は実際にお客さんのところでやってぶんまわすところに意味があると思います。今回は部分的な案件でしたが、実際の案件も取れそうなところまで来ています。後は、自分でソリューションを考えてどう売るかです。今はトークの面でサポートをしていますが、次の要求開発セミナーのときには自分のトークで獲得した案件について発表できるかもしれません。

向中野:営業という観点で言うと、やはりソリューションを自分で説明できないといけません。実際に営業に回ってみて、わかっていてもだめだった部分が再認識できました。外部にソリューションを発信して、これで解決できるという営業活動を続けたいです。

業務知識はどう身につけたらいいか

―ここで会場の高田様から発言―

高田(会場から):私も要求開発を使った企業改革を行った一人ですが、萩本さんのお話を伺って、これはいける、エンジニアとしての姿勢を変えられると思いました。「要求はあるものではない、作るものだ」という考え方に意義があります。要求開発では、エンジニアが上流工程に関わっていくチャンスがあります。上流を扱うときに、業務知識が必要なのではという課題はあります。

丸山:私は業務知識がないところからスタートしました。もちろんユーザーさんやSIerさんは業務知識を持っていますが、だからこそドキュメントもないという暗黒状態でした。そのあたりをてこ入れして、見える化し、ようやくユーザーさんに追いついたというレベルかもしれません。要求開発にしっかり取り組めば、すぐにいい線まで行くと思います。

萩本:私も専門知識がない状態から要求開発をスタートします。もちろん勉強はするのですが、お客さんは私たちに業務知識を期待していません。業務知識と言ってもそもそも知識化されていないことがあります。形になっていないので、触れない、変えようにも変えられない、という状態です。私たちは、業務知識を触れるようにし、知識化してお返しすることが求められています。ニッポンダイナミックシステムズさんはモデルがわかっているので、価値から最適化できます。今そういうチームを育てているところです。

高田:わからないことは、勇気を持って質問することが必要です。私も部下に今はいっぱい聞いています。聞いてみると相手にも気づきが生まれ、それが大きな力になります。次回のセミナーではぜひ成功事例をお聞かせください。

営業と技術が一緒に営業していくポイントは

―ここで会場の住吉様から発言―

住吉(会場から):先ほど田谷さんから営業のお話がありましたが。営業と技術が一緒になって営業をしていくポイントを教えてください。

田谷:いいアイディアかどうかはわかりませんが、覚悟と続ける意志でしょうか。マラソン的なテンション、長いビジョンでやっていく覚悟です。

萩本:聞きたかった言葉です。お客さんに言葉が響くまでは時間がかかります。行くべきときにいけていないかもしれません。そこを突破するには、営業と技術がこの仕事を絶対に取りに行くぞという気持ちです。そういう気持ちは目や迫力に現れてきます。心の部分をニッポンダイナミックシステムズが勝ち得たら本物になります。今はもう少し壁があると思います。牛尾さんが外でやっているように思い切ってやってみることが大事です。日本のエンジニアは内にこもって仕事をしていますが、優秀な人は外でも平気で話をします。仮にたいしたことは言っていなくても、迫力で仕事が取れたりします(笑)。そうすると、その仕事をやるために技術力が高まります。このように、仕事と営業を両立をさせることが大切だと思います。

住吉:エンジニアと一緒にユーザーさんのところに行ったのが大きいです。エンジニアが一緒だとユーザーさんもお話を聞いてくれます。技術の後ろ盾があると話がしやすいです。タイミングを逃すことがなくなります。

萩本:貴重なお話をどうもありがとうございました。ここでいったん休憩にして、パネラーを入れ替えてから後半に入ります。