「DEEP AGILE PEOPLE」 〜本には書かれていない、アジャイル開発の本気の討論会〜


 

■初めての試み?


日本のアジャイル界を牽引してきた三氏が部屋の真ん中で輪になって居酒屋で話をするという設定(当日はアルコールゼロのドリンクも……)のもと、ディスカッション的トークを繰り広げるという、これまでにはない形式でのプログラムでした。
三氏の話の中で、チームやメンバーに実践してもらうことや「」に重きを置いているのは共通していますが、そこへのアプローチや手段が異なっているのは興味深く、もっとこのプログラム、この場を体験したい気持ちもありましたが、時間はそれを許してくれませんでした。

時間の限られた居酒屋風プログラムから、個人的に印象的だったシーンをかいつまんで紹介します。

 

■アジリティが高いということ


牛尾

「昔、アリスター(アリスター・コーバーン)と話をしていた際に、アジリティはだと。インテリジェンス&クイックだと言っていたんですよ。チーターは猛スピードで走るけれど動きは直線的、虎はこまめに力強く方向を変えていく。要は細かく変化に対応ができることだと思うんですよね。そして、変化に追従することが大事なのであって、アジャイルはソフトウェアを作る際の道具箱のひとつだと思っています。

最初にアジャイルを導入しようなんて考えず、解決したい課題があってそれを解決するために、道具箱の道具を使うイメージです。課題を解決するためにドキュメントが必要だということもあります。」

川端

「でも、虎のように素早く力強く動くのは大変ですよね。そして大半のプログラマって素早く動けない。つまり、腕がいいプログラマほど「保守的」ですよね。「保守的」だからこそ、様々なケースを考えて例外にも対処して堅牢なシステムを作れる。

だから、素早く動けるように時間をかけてチームの成長を待つより、個々に積極的にインセンティブを提供して、リーダーシップを発揮して引っぱっていくほうがいいと思っている。それは欧米人のように個々人のアイデンティティが確立しているところと、日本人に多い『指示待ち』というところと大きな差があると思っているからです。」

 

■余談


プログラムの途中途中でコメントをいれていた森崎氏が、牛尾氏のアプローチを「放牧的」と表現していたのは面白かったです。

当日の牛尾氏の発言の多くは、翔泳社刊「100人のプロが選んだソフトウェア開発の名著 君のために選んだ1冊」の牛尾氏の章の最終段落にも記載されているかと思います。また、川端氏の当日の発言の背景は、アジャイル同人誌「Ultimate Agile Stories」で垣間見ることができます。

こういった背景を踏まえての、この三氏の組み合わせだったのでしょう。司会進行を務めた実行委員でもある細谷氏が一番楽しそうに聴いていたところが印象的でした。

 

■原田氏のハイライト


そして、もう一人、当日もピシャリと締まるお話をされていた原田氏。

原田

「かつて『Agile』と命名されるまでに紆余曲折ありましたが、私がしっくりきていないのが『アジャイル=速い』というメタファーなんです。
別に速くなくてもいいと思うんですよね。その状況に応じた『臨機応変』ということであればそれでいいと思うんですよ。造船業のように巨大な鉄板1つを溶接するのに一週間かかるものもあれば、半導体のようにミリ秒で1個できるものもある。要は相手の速度に対応できるように、その2倍の速さがこちらにあればいい

私は出自が化学屋なのですが、やりたいことが分かっていてそれを作るのは『マニュファクチュアリング』であって、やったことのない一回きりだからこそ『プロジェクト』というわけで、毎回新しいものを作るのだから、結果をみてフィードバックをかけてうまくいっているか『味見』をしながら進めていくのは、化学プロセスを学んだ身からすると、当たり前のことだと思っています。それがようやくソフトウェアの世界にも広がってきたのだなという実感を持っています。

アジャイルって、本当はそう言わなくてもいい、普通にあることだと思っています。」

 

■最後に


三氏ともに、よく言われるプラクティスやフレームワークといったものには全くこだわることなく、その時の状況や相手、チーム―まさにコンテキストにあわせて、臨機応変に対処しているというお話が印象的でした。

それぞれ三氏が現場で実践してきたことの結実としてこのプログラムの時間があまりにも短く感じたのは、きっと私だけではなかったでしょう。この普段あまりにお忙しいトップランナー達の中身の濃い、居酒屋風ディスカッション的トークを聴けたAgile Japan 2012に感謝しています。ありがとうございました!

 

■おまけ


原田氏が当日のことをブログで振り返っています。当日最後の参加者からの質問への回答にも関係しています。一読をお勧めします。

 


公認レポーター:佐藤 嘉亮
(早版をベースに加筆修正した正式版レポートです。)