楽天テクノロジーカンファレンスで聴講したセッションのうちの2つ、

これらは、いずれも組織変革の話でした。
そこで、カンファレンス全体の感想として、2つのセッションから学んだ組織変革の起こし方について筆を執ります。

 

■仮説:「イノベーティブな組織変革」と「守備的な組織変革」があるのではないか

2つのセッションを聞いて感じたのは、組織変革には、組織をイノベーティブな体質に変えていく方法(イノベーティブな組織変革)と、「仕方ない」を一つずつ取り除いていく方法(守備的な組織変革)とがあるのではないか、ということでした。

楽天トラベルの10%Ruleは、新しいサービス・機能を作り出す取り組みでした(イノベーティブな組織変革ではないか?)。一方、中村さんの壁を壊す話は、現状の不満を潰していくやり方でした(守備的な組織変革ではないか?)。この両者の世界は大きく違う、そう私は感じたのです。

こうした考えを持っていたところ、カンファレンス後のビアバッシュパーティで渡邉さんと話をする機会がありました。そこで分かったのは、イノベーティブな組織変革だと考えていた10%Ruleの復活は、実は「守備的な組織変革」だということでした。

 

■検証:10%Ruleの復活は「守備的な組織変革」である

そもそも、楽天トラベル部門の10%Ruleは、どのように始まったのでしょうか。

渡邉さんに聞いたところ、Googleの20%Ruleに刺激されて始まったということでした。Googleの20%Ruleに刺激された当時の楽天は、余っているサーバを集めて仮想環境を構築。エンジニアが自由に開発できる環境を提供しました。
ところが実際に開発を行うエンジニアは、あまりいなかったようです。それを見かねた楽天トラベルの佐藤マネージャが「うちの部門はちゃんとやろう」と思い、生まれたのが10%Ruleだったのです。

こうして生まれた10%Ruleも、楽天トラベルの組織変革を境に、消滅の危機に見舞われます。「一度、消え去った制度を復活させることは、残していくことの数倍難しい」渡邉さんは、そう考えて10%Ruleの復活を目指したのでした。

 

■思索:「守備的な組織変革」は存在するのか

渡邉さんと話しているうちに「守備的な組織変革」なんてあるのだろうかと疑問を感じました。

「なぜ僕らは組織変革を望むのだろうか」
「なぜ新しい試みをしたいと思うのだろうか」
そう考えたときに、アジャイルジャパンでファシリテーターの高柳さんから聞いた「QPMIサイクル」の話を思い出しました。

QPMIサイクルとは、「Question Passion Misson Innovation」の略語で、イノベーションを起こすためのサイクルと言われています。

  • Question:「なぜ?」という疑問から
  • Passion:研究への情熱が生まれ
  • Mission:人を巻き込む使命に変わると
  • Innovation:イノベーションが起こる

楽天トラベルの10%Ruleも「なぜ自由に開発できる環境があるのに、彼らはやらないのか」という疑問から始まった、QPMIサイクルの実践でしょう。中村さんの言う「壁を壊す」という試みも、QuestionとPassionに相当するのではないでしょうか。

 

■学び:イノベーションは、行動の積み重ねから生まれる

結局のところ、イノベーションとは、一つ一つの行動の積み重ねから生まれるにすぎません。

楽天トラベルの10%Ruleは、Googleの20%Ruleに影響を受けたところから始まり(1つめの行動)、エンジニアに自由に開発できる環境を与え(2つめの行動)、制度として実行できるようにし(3つめの行動)、人を巻き込んでいく仕組みを作る(4つめの行動)、という積み重ねから出来上がりました。

思い返してみると、私の仕事も、一つ一つの行動の積み重ねでチームに新しい試みを導入することができたのだなと感じています。

イノベーションを起こしていった楽天トラベル渡邉さんですが、彼らが生み出した10%Ruleにはまだまだ課題があります。どうすれば解消できるのか、発展させていけるのかと、思いを巡らせているそうです。

現状をただ嘆くのではなく、自分の出来ることから、障害になっているところを一つずつ取り除いていく。そうして行動していく中で、「仕方ない」文化からイノベーティブな文化への組織変革を起こしていけるのでしょう。今回聴講したセッションを通して、私はそう感じました。


参考

QPMIサイクルに触れている記事(文末に記載があります)。


公認レポーター 田野口 大樹