セッション:Lean from the Trenches: Managing Large Scale Projects with Kanban & Scrum & XP

スピーカー:Henrik Kniberg

ストックホルムのCrisp社でアジャイルおよびリーンのコーチをしており『塹壕よりScrumとXP』の著者でもあるヘンリック・クニベルグ氏。日本でも、Qcon2009Scrum Gathering Tokyo 2011でスピーカーを務めています。

Agile2012では「Lean from Trenched: Managing Large Scale Projects with Kanban & Scrum & XP」というテーマのもと、大きくなっていくプロジェクト/組織に対して、どのようにカンバン・スクラム・XPなどのツールを用いてマネジメントしていくのかを話しました。彼の関わったプロジェクトを題材に、実際にどのような改善を繰り返したのかを話の軸に置いているため、方法論ではない、現場に即したセッションでした。
なお、英訳が多いため意訳をしています。ご了承ください。

 

■巨大化するプロジェクト

彼は、スウェーデン警察のシステムを開発するプロジェクトに携わっていました。最初は10人ほどで始まったプロジェクトも、1年後には30人、2年後には60人以上とプロジェクトの規模も組織の規模も大きくなっていきます。当然、それだけの変化の中で、開発の進め方も変化しなければなりません。

 

■変化への対応

組織


Henrik KnibergLean-from-the-trenches』スライド8より

当初のチーム構成は、要求分析チームと開発チーム(3チーム)とテストチームに分かれていました。しかし、規模が大きくなるとフローが複雑になり、チーム間での受け渡しの際の伝達漏れが発生してしまいます。


Henrik KnibergLean-from-the-trenches』スライド9より

これを解決するために、要求分析チームから数名、テストチームから数名を開発チームに参加させて、フューチャーチームと名前を変えました。プロジェクトの規模に合わせてチーム構成も変えることで、開発の流れをスムーズにできます。


Henrik KnibergLean-from-the-trenches』スライド11より

チーム構成の変化に合わせて、デイリースタンドアップ(朝礼)も工夫をしました。

最初はフューチャーチームで、次に役割ごとのチームで(テストチームはテストチーム、要求分析チームは要求分析チーム)、そして最後にプロジェクトのコアメンバーが集まって、それぞれ15分ずつ朝礼を行います。この順番で行うことで、情報共有の自然な流れができます。この朝礼のやり方を「デイリーカクテルパーティー」と呼んでいるそうです。

Scrum of Scrumのデイリースタンドアップにも少し似ていますが、Scrum of Scrumが組織の縦方向へのびていくのに対し、デイリーカクテルパーティーは横方向へものびていくイメージです。組織の広がり方に合わせて、朝礼のやり方も変化をしています。

カンバン


Henrik KnibergLean-from-the-trenches』スライド13より

組織と同様、カンバン(タスクボード)も変化をします。
このカンバンは、プロジェクトボードと呼ばれ、全体の流れがつかめるように左から右へフローが流れるように区分けされています。ヘンリックの例えを借りると、渋滞している車を交通整理して流れるようにするイメージだそうです。


Henrik KnibergLean-from-the-trenches』スライド27より

このように、プロジェクトボードによって全体の流れの見える化を保つよう工夫をすることで、ボトルネックが発見しやすくなります。関わる人やチームが多くなる分、ボトルネックがどこにあるかは、全体を俯瞰しないと気づくのが難しいです。
この写真の例では、テストチームのタスクが溜まっているので、ここがボトルネックであることが分かります。ボトルネックの場所が分かれば、そこに対して改善策を打てるので、チームの改善スピードも上がります。


Henrik KnibergLean-from-the-trenches』スライド21より

また、カンバンには物理的制限があるので、1つのカンバンだけで整理するのは難しくなります。写真のように、全体の流れを見るカンバン、そこから1スプリント分のストーリーだけを抜き出して各チームで管理するカンバン、というようにカンバンをスケールすることで変化に対応しました。


Henrik KnibergLean-from-the-trenches』スライド14より

このヘンリックが作った最強のカンバンは、一夜でできたわけではありません。さまざまな試行錯誤の末、日々進化した成果です。そして今後も改善されていくことでしょう。

 

■継続的改善の文化をつくる

ヘンリックは、継続的改善の文化をチームにつくることが重要だと説きます。「誰か」ではなく「チームに」です。その工夫のいくつかを紹介します。


Henrik KnibergLean-from-the-trenches』スライド25より

開発サイドの方なら分かると思いますが、プロダクトオーナー(ビジネスサイド)とストーリーマッピングを行う際、ビジネスサイドに説明しにくい技術的なストーリー、例えば、リファクタリングや開発環境の改善などを混ぜ込むのは難しいです。ヘンリックのチームでは、10個のフューチャーに対して技術的なストーリーを5個という割合でスプリントをまわすルールにしているので、開発者も安心して改善活動を行うことができます。


Henrik KnibergLean-from-the-trenches』スライド45より

ヘンリックのチームでは、1〜2週に一度、振り返りミーティングを行います。そこではたくさんの改善案が出ますが、持続できるペースで確実に改善を進めるために、4つのトライに絞るようにしているそうです。


Henrik KnibergLean-from-the-trenches』スライド60より

これらの結果、彼らのチームはどんどん改善し、ベロシティが上がっていきます。それをバーンアップでグラフ化して計測することで、チームのモチベーションにつなげます。写真のように、ベロシティが上がってグラフの傾きがどんどん急になっていることが、一目で分かります。


Henrik KnibergLean-from-the-trenches』スライド63より

1週間あたりに完了したフィーチャーの「ベロシティ」に対して、1フィーチャーを完了するに要した時間の「サイクルタイム」を計測しています。チームの開発スピードが上がっていることが分かります。

 

■重要なのは、その場所ではなく方向


Henrik KnibergLean-from-the-trenches』スライド72より

彼はプレゼンテーションの最後を、

どのように働くのかが重要ではない
どのように働き方を改善するのかが重要である

という言葉で締めくくっています。

Lean Startupの中に「地図を捨ててコンパスを頼りに進め」という言葉がありますが、同様に変化に対しても、その場にとどまるのではなく、改善というベクトルを常に持って進んで行くことが大事だというヘンリックの想いが、このメッセージに込められています。

 

■所感

ヘンリックは全体を通して「変化への対応」「改善」をテーマにしているのだと感じました。朝礼・カンバン・テスト・XPなど、ツール自体はありふれたものですが、それをいかに現場に落としていくのかが、なにより大事なことです。

一朝一夕に今の形になったわけではなく、彼が現場の意見を拾い上げて改善し続けた結果なので、そのままマネをすれば成功するわけではありません。彼から学ぶべきは、見える化や分析による問題解決の仕方と、そこから継続的改善につなげる姿勢であると私は考えています。

 

■おまけ

私は、Scrum Gathering Tokyo 2011に参加してヘンリックのキーノートを聞きました。その頃の私は、アジャイルやスクラムという言葉を知ったばかりでしたが、彼のプレゼンテーションは印象深く、今考えると、その後の改善活動に大きく影響しました。

そのプレゼンテーションの中に出てきた言葉
人は変化を好まない生き物。だからまずは自分を変えてみよう
は、私の大好きな言葉のひとつになり、今でも繰り返し使っています。このことをヘンリックに伝えて、お礼を言ったところ、とても喜んでくれました。次に会った時には、私の改善活動の成果報告をすると約束しました。

 

参考


Agile2012現地レポーター隊「アジャイルクローバーZ及部 敬雄


2 Comments

@takigawa401 · 2013年1月2日 at 09:09

「地図を捨ててコンパスを頼りに進め」のお手本の様なプロジェクト事例。 / “[8/14] スケールするプロジェクトと継続的改善 〜Kanban & Scrum & XP – Agile2012 現地レポート(18) | ManasLi…” http://t.co/IvjEJqwW

Dai Fujihara (@daipresents) · 2013年9月20日 at 15:05

ヘンリックのかんばんについてはAgile 2012レポートも参考のこと http://t.co/EXr157Bi0Q http://t.co/LRSeVRTUCh #kansumiA5

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