「クックパッドがリーンスタートアップから学んだアジャイルな開発」
「アジャイル meets スタートアップ!」このテーマで始まったAgile Japan 2012 東京サテライト。東京サテライト オープニングでアジャイルの”もうひとつの答え”として株式会社ソニックガーデン・倉貫氏が提示した「スタートアップ」。
クックパッドでは、開発に関わる全ての社員がEric Ries氏のThe Lean Startupの原書を読み、リーンスタートアップを実践しているそうです。クックパッド株式会社・橋本 健太氏の事例紹介は、クックパッドが実際にどのようにリーンな開発を実践しているのか、開発から公開に向けてどのようにクラウド技術を活用しているのか、についての紹介でした。
■リーンスタートアップとの出会い
橋本氏はセッション冒頭で、経営理念である「毎日の料理を楽しみにすることで、毎日の笑顔を増やす」を達成するために必要なこと以外は行っていない、と話し、その結果たどり着いたのがリーンスタートアップを取り入れた開発手法だったそうです。
そもそもクックパッドにおけるリーンスタートアップとの出会いは、2011年の秋、Eric Ries氏の著書「The Lean Startup」に出会ったことが始まりだったそうです。
この書籍で紹介されている手法がクックパッドが培ってきた開発手法と共感できる部分が多数あり、全開発者への導入を決めたそうです。しかも、「The Lean Startup」邦訳版の出版が6ヶ月後に予定されているにもかかわらず、その6ヶ月を待つことすら致命的と判断し、全開発者が原著(英語版)を読むことを決めました。
通常の企業であれば、こういった書籍を全開発者向けに導入決定するまでかなりの時間を要するところ、原著での導入を直ぐに決定し、実行に移す機敏さこそ、まさにクックパッドの”リーンな文化”を体現しているな、と感じました。
クックパッドでは、以下のようなプロセスを採用しているそうです。
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上記4つのプロセスに関して、事例の紹介がありました。
■仮説の構築
現在の開発現場では試行錯誤が続いており、仮説の構築について各チームの手法が乱立する状態で、
- EOGS(Emotion Oriented Goal Setting)
- 仮説構築チートシート
- ユーザーストーリー
などの手法が用いられているそうです。
■MVP
MVPでは以下のような手法が実際に行われたそうです。
- ページのラフ画を印刷し、それを社員に見せてインタビューをする。
- 近所のスーパーにチラシをはり、メールで希望するレシピを送付する。
- 希望した社員向けに、毎日1回メールで今日のおすすめレシピを送る。
これらのMVPの検証は、いずれもディレクターが行ったそうです。これらのMVPは共通して”コード化が不要”なため、エンジニアなしでも”価値の検証”が可能という利点があります。
■BMLループを回す
- スタッフ向けに公開されているクックパッドに、エンジニア個人の判断で新機能リリースが可能。
- コホート分析が可能なように、少人数のユーザーに段階的に公開、数値を検証。
スタッフ向けに公開された新機能について、スタッフの推薦と検証する項目の合格ライン数値を厳密に決めた上で、定期的に行われるリリース会議で、段階リリースを検討するそうです。この段階リリースの実施後2週間程度で検証を行い、数値を満たしていた場合はさらに公開、満たしていなかった場合はどこが問題だったのかを分析するそうです。
■質疑応答
最後の質疑応答で、アジャイルUCD研究会・樽本 徹也氏から質問があり、
「The Lean Startupを読み体制は組まれた。プロセスを回すことは技術的な問題ではなく、文化的な問題が重要。クックパッドでは、もとからユーザ中心の文化が成り立っていたようにうかがえる。リーンスタートアップを取り入れた開発手法の成功は、ユーザ中心文化とThe Lean Startupの導入、どちらが重要だったのでしょうか?」
この質問に対し、橋本氏は
「どちらかと問われればユーザ中心の文化が大きかったと思います。ですが、The Lean Startupを読んだことで、”文書化されていることで共感がしやすかった。”、”The Lean Startupの内容が共通言語となり、コミュニケーションを高めた。”」と回答しました。
クックパッドで行われているリーンスタートアップの開発手法は、文化として根付いていた”ユーザ中心の文化”と言語化されたリーンスタートアップ手法がマッチした好例だと感じました。そして、価値を届けるために最も重要なことは、手法やツールといったスキルセットではなく、マインドセットなのだと再認識しました。