「The Surprising Science Behind Agile Leadership」~アジャイルリーダーシップの背後にある驚くべき科学について~


Ustreamで全国各地のサテライト会場へ中継され、いよいよ本番。オープニングに続いて、われらがマスターセンセイことジョナサンの登場です。新幹線の移動中に頑張ったという角谷さん渾身の和訳付き資料と平鍋さんの通訳フォローも相まって、みなさん楽しまれたようです。

■工場労働者のモチベーションマネジメント

ジョナサンが最初に紹介したのは鉄鋼業におけるマネージャーの振る舞いでした。3交代制の工場でそれぞれの時間帯を担当するマネージャーが自分たちの成果(生産できた数)を書くことで、各チームが自然と競い合うようになり、労働者のモチベーションと工場全体の生産性が向上したというものです。3つのチームが同じ製品を作っているので、どのチームが最も効率良く仕事ができたかを比較するのは簡単です。

■ソフトウェアエンジニアのモチベーションマネジメント

では、工場で用いられた手法をソフトウェア業界に適用できるでしょうか?
チームや個人単位で仕事の内容が日々異なるので、流用するのは難しそうです。そこで登場するのがアジャイル型のリーダーシップです。
なぜうまくいくのか?ジョナサンは報酬とモチベーションに関する研究結果の動画ダニエル・ピンク著『モチベーション3.0』の要点)を紹介してくれました(日本語の字幕付きです)。この研究結果はアジャイルの考え方にとてもマッチしていると言います。

インパクトのあるとても楽しい動画です。大阪会場は満席で後方ではスクリーンの下半分が見えなかったようですが、それでもみなさんの興味を引いたそうです。

講演後にジョナサンと少しだけ会話する時間を持てました。ダニエル・ピンクの影響は大きいというか、『モチベーション3.0(原題:Drive)』はお気に入りのようです。私も読んで「なるほどな」と思ったクチなので、この動画は繰り返しご覧いただきたいです。セッションタイトルである「背後にある驚くべき科学」もここに集約されています。

■人は何のために働くのか?

複雑で創造的な作業において、お金というモノで人のモチベーションを上げて能力を引き出すのは困難であることが研究により明白になりました。では、人が動く原動力は何でしょうか?動画の中でも人が動く3つの要素として、自律(autonomy)・熟達(masterly)・目的(purpose)が示され、それぞれ丁寧に説明されています。

ときには「働くのはお金のため」と言い切る方に出会うこともあります。でも、お金自体は生活に必要だったり、何かの目的(趣味とか、家族のため)に必要なのであって、お金そのものが目的というケースはレアではないでしょうか。目的の途中にお金があるかもしれないだけで。
ボランティアの活動分野は広く、「みんなの助けになりたい!」「私の持っている技術を活用したい!」といった気持ちの原動力は強力です。金銭的な報酬以外を目的にして動いている好例です。そう考えてみると、研究結果は納得のいくものだと思います。

■仕事の未来

仕事の本質は変化しています。私たちソフトウェアエンジニアの仕事はとても創造的です。同じプロジェクトはありません。加えて、IT技術やサービスの進歩により、これまでになく個人の自由と力が大きな時代になりました。私たちが得る報酬は、どこに住んでいるかではなく、私たち自身が持っている長所(価値)によって左右されるようになるだろうとジョナサンは言います。

この点は『仕事の未来』というスライドで詳しく述べられています。
英語の資料ですが、キーノートセッションで取り上げられなかった観点も盛り込まれていて、これからの働き方を考える良いきっかけになります。

■変わっていないのは組織

アジャイルなチームは自律的に目的に向かって進もうとします(=autonomy)。アジャイルなチームは継続的に改善します(=masterly)。そして、私たちは目的(purpose)を欲しています。動画で見た研究結果の通りです。科学的な証明があるのにどうして、働き方が変わらないのでしょうか?
ジョナサンは組織の問題を指摘しました。多くの組織は相変わらずのピラミッド構造を取り、指揮命令で私たちをコントロールしようとしています。これまでのやり方を続けたい組織と自律的に働きたい個人(チーム)という全く異なる価値観が衝突して緊張状態にあるわけです。

この説明を聞いて、アジャイルに限らず「なぜ仕事のやり方を変えられないのだろう?」「組織の中はどうも窮屈だな」という感覚が生まれてくる構図が理解できたように思います。でも、誰かが何とかしてくれるのを待っていずに、何か行動を起こしたいですね。

■ジョナサンからの贈り物

「自律(autonomy)によって、チームはどうやってゴールにたどり着くか自分たちで見つけ出し、継続的に進歩しようとする」まさにアジャイルの目指している姿です。私たちに何ができるのか?最後にジョナサンは、アジャイルリーダーシップの4つのポイント(+おまけ)をおみやげとして提示してくれました。

私が個人的に気になったのは誰でもすぐに実践可能な2つ!「自分よりも優秀な人をマネジメントするということを受け入れる」「手綱を少し緩める」です。

どちらも、心に留めておきたい言葉です。アジャイルな組織ではお互いにリーダーシップを発揮しながら仕事を進めます。新しい技術を身に付けた後輩が次々入ってきますし、メンバーはひとりひとり違う長所を持っています。自分のモノサシで評価せずお互いを尊重して新しい価値を生み出せる関係を築けたら、きっと素晴らしい成果に到達できるのではないでしょうか。


公認レポーター:原田 美香
(早版をベースに加筆修正した正式版レポートです。)