Agile Japan 2016 セッションA-1

平鍋さんと言えば、いまさら紹介するまでもないと思います。「今の日本にアジャイルを広めた第一人者」というイメージは、みなさんも同じではないでしょうか。「先進的な手法としてのアジャイルを、未知のものとしか捉えていなかった日本に的確に導入できる人」なんてことを思い浮かべる人もいるでしょう。

そんな平鍋さんによる、自分たちと自分たちの周りを変えたいと思っている方々に勇気を与えるセッションでした。

アジャイル開発って使えるの?

平鍋さんが永和システムマネジメントの社長に就任した際、全社員に向けてアジャイルの講演を行いました。

永和システムマネジメントが手がけているプロジェクトは、すべてがアジャイルではありません。
金融などの保守的な事業も含まれています。このような事業では、法律による規制と高いサービスレベルが求められます。法規制や高いサービスレベルを求められる事業の場合、プロジェクトはウォーターフォール開発で進めているそうです。各工程を厳密に進め、次工程に引き渡すための入念なチェックを行うプロセスが好まれるのだと思います。

一方で、アジャイル開発では、成果物を少しずつ提供していくような繰り返しのプロセスです。
このようにウォーターフォール開発とアジャイル開発とでは異なっており、使用するプラクティスも異なります。そのため、保守的な事業の担当者から「でも、それって今の仕事で使えないよね?」という反応を予見していたそうです。

それでも、なにかできないかと考え抜いた平鍋さんが行き着いたのは、

アジャイルを取り入れることが目的ではない
アジャイルの要素を使って、今の仕事を今よりよくできればいいじゃないか

という考えです。

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プロジェクトファシリテーションがよいチームを生み出す

プロジェクトファシリテーションは、アジャイル開発、トヨタ生産方式とファシリテーションで構成されています。
平鍋さんいわく「オッサンホイホイ」。オッサン、つまり業務経験が長く、顔が利き決定権を持っている管理者や経営層を指していると思います。かつては「アジャイル」という言葉だけで拒否反応を示されることもありました。そういった人たちが受け入れやすいように、表現を選んだのだと思います。

このセッションではプロジェクトファシリテーションのうち、最初に行う「見える化」を取り上げていました。
見える化の例に、野球のスコアボードがあります。選手や監督は、スコアボードがあることで次になにをすればいいかがわかります。観客もまた、スコアボードで次になにが起こるのかがわかります。
カンバンによるタスクの見える化、バーンダウンによる進捗の見える化は、次になにをすべきかが理解しやすい形で目に入り、自発的な行動を引き起こしやすくなります。

プロジェクトファシリテーションから生み出されるものに、「自律性」や「助け合い」があります。「自律性」や「助け合い」は、人間らしい活動を呼び起こします。プロジェクトファシリテーションの活動は、プロジェクトの成功という短期的な成果だけでなく、よいチームという長期的な成果を生み出すものなのです。

なにかを変えよう、そして自分も変わろう

平鍋さんの話は、周りを変えていくために自分を変えていった話に思えました。アジャイルを広めたい、けれども本来の目的はアジャイルをやること、そのものではなく、今ある課題を解決してよりよくするためです。そのために、伝える本質は変えずに、言葉と品を変えていました。

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平鍋さんは講演の中でしきりに、Joe Justiceさんの基調講演を「ぶっとんだ事例」と言っていました。
自動車やワインの製造にスクラムを導入した事例は、確かにぶっ飛んでいます。変更が容易で柔軟なはずのソフトウェアで四苦八苦しているわれわれには、信じがたい事例です。
けれど事実です。「おとぎ話と思わずに、なにかを変えていこう」という平鍋さんの言葉の通り、自ら変えていくことで到達可能な未来を提示してくれたのだと思います。

これは、Agile Japan 2016の後に平鍋さんが投稿したtweetです。

  • アジャイルになることが目的ではなく、常によりよくなっていこう。
  • それは自分ひとりのためではなく、関わる人たちのためにやっていこう。

と、私は解釈しました。

変化を生み出すアジャイルで周りをよりよくしていく、そのために、まずは自分が変わることから始めましょう。
それは小さなことからでも、いいのではないでしょうか。


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