- セッション:B-1:事例セッション
アジャイル開発チームと共に歩む ~発注側から観るアジャイル開発~ - レポーター:高柳 謙(公認レポーター)
- 作成日:2015年4月20日
- プロフィール:今年は関わり方を変えてみました
- 執筆レポート:http://www.manaslink.com/ken-takayanagi
Agile Japan 2015の公認レポーターとして2つの事例セッションをレポートします。まずはKDDI株式会社の事例発表です。
開発も発表もコラボレーションで
最近のAgileについての発表はエンジニアサイドだけではなく、マネージャーやデザインサイドの方の発表も増えてきていて、さらに一緒に発表をする機会が増えてきた印象があります。それは開発が一人(一役割)では完結しないという当たり前の部分が、発表でもそれぞれの役割において伝えるようになったのだと思いました。
そんな中、今回のKDDI株式会社クラウドサービス企画開発部の発表は、Agileな開発はチーム・仕事の関係性を成長させることを実感できた事例でした。事例の開発以前は水と油のようにお互いの立場の主張がずれていたそうですが、開発後は一緒に発表するまでの仲になったとのことでした。発表は各立場から見た工夫した点、苦労した点、改善した点などを三人三様に話していました。
発表者はクラウドサービス企画開発部 開発4G グループリーダーの荒本 実さん、同じくクラウドサービス企画開発部 開発4Gで調達などを担当された山田 高さんとエンジニアの川上 誠司さん。
キーは「覚悟」
まず、なぜAgileな開発をすることになったのかについて語られました。部のMission的な企画の対象である「クラウド」は先読みが難しいこと、そしてトップからの「1年後の市場がどうなっているかわからないからAgileでやれ」という言葉だったとか。
よくトップダウンからの一言は必要と聞きますが、本腰を入れてAgileに取り組むには、それに加えて部のMissionといった力を入れる案件もあるのだなと思いました。言葉が適切かはわかりませんが「覚悟」のある案件であることがキーになるなと。
状況に応じて常に改善
開発については、ベロシティのストーリー消化数を基に、消化数が少なければ工夫・改善を行っていったそうです。ストーリーの粒度を細かくしたり、エンジニアにもストーリー施策可能可否について編集する権限を与えることで、エンジニア自身が必要性を理解して実装した話がでて、エンジニアにも権限を与えには葛藤があったとのこと。状況に応じて施策を打っていくことは大事だなと思いました。
見える化した結果、端的に「だめだ、やめよう」と判断するのではなく、改善できることを信じて進めたところがすごいなと思いました。実際にベロシティが上がることが手ごたえになったという話でした。
また、印象的だったのが「水曜日は開発しない日」という話。水曜日は開発を行わずにふりかえりや議論にあて、常にコミュニケーションを行う、意見を言える、一緒に考える時間をとり、メンバーが自分事にできるようにしていったそうです。業務の中で話しあえる関係性を構築していくのは、評価し評価される仕事関係においてはすごく難しいことで、リーダーの覚悟はイノベーションを引き起こすかもしれないと思いました。
パートナー企業と共に成長
開発チームの在り方からの話もあり、これまでは内製はあまり行わず「RFP作成・受け入れテスト」が主だったところ、スプリントを回すためにも必須との考えから「設計・実装」にも踏み込むことにしたそうです。そのために、開発を発注していた外部のパートナーさんと社内で共同開発し、ペアプロなどを行うことで自社のエンジニアをレベルアップし、自ら仕様を決定できるようになったということでした。未経験から6ヶ月で商用として通用するコードを書けるようになったそうで、パートナー企業と共に成長する仕事のやり方は良いことだと思いました。
成果物の責任を負うことと成功のための技術力を発揮すること
さらに調達の話もありました。Agileな開発を導入するときによく話題にのぼるパートナー企業との進め方にもつながりますが、発注側と受注側の「壁」の話で、成果物ベースの請負契約では、作るものが変化していくAgileな方法では難しく、準委任契約にすることで時間ベースの体制で開発に臨んだとのことでした。請負は相手に「成果物の責任を負う覚悟」が引き出される契約で、準委任契約は「成功のための技術力を発揮する」契約であるという話が響きました。
また、Agileな開発が現状の開発と違う場合でも、開発プロセスを変えずに工夫することで企業のプロセスでもやっていけるという話も出ました。Agile開発は開発部門が変化すればいいだけの手法ではなく、ユーザー企業が変わらなければならない手法という覚悟のある言葉がぐっときました。
パートナー企業と共にAgileを実践するのはお互いに挑戦の場だと思いますが、現在の開発現場で完全に一社で行っているところは少なく、トップダウンへの対応として自社だけでやってみるというのはよくあることです。だからこそ、ここまで巻き込んだ事例を聴けるのはすごいことだと思いました。
Agileな開発で組織が変わる
最後の方で川上さんがおっしゃっていた(と思う)
「お互いに見える」環境では、困った姿も見えて、それを見れば「支えたい」と動くことができる
という言葉は、基調講演で聴いた言葉「Trust」と、最近企業の言葉として「Familiarly」が聴かれるようになった時代においては、Agileな開発で組織が変わっていくことが起こり始めているのだなと考えました。
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