[早版] Agile Japan 2011 – レポート「アジャイルコンサルタントの秘密」 (矢島 卓)

「アジャイルコンサルタントの秘密(エンタープライズ・アジャイル編)~東京会場の方だけにこっそり教えるアジャイル組織導入の勘所~」 – 牛尾 剛 氏


「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~じゃいる!!」
隣接する部屋にまで響き渡るかの大合唱が会場内に巻き起こった。 「多彩な芸風を持つアジャイル界のプリンス」こと牛尾さんの皆を巻き込んだ講演は、ひと言でまとめると、まさに「実践的エンターテインメント」だった。

■はじめに

牛尾さんから会場内に対し、「皆さんの中でアジャイルを組織的に導入している企業はありますか?」という質問があり、それに対して数名程度の手が挙がった。

現在の牛尾さんは、お仕事の大半を「アジャイル開発の組織導入支援」が占めるのだが、かつて大手企業に務めていた頃はまだまだ「アジャイル開発」自体が特異な存在であった。その当時は「はっきり言って『テロ』のようなもの」であったそうだ。だが、アジャイルに対する意識は当時から高かった牛尾さんは、自らを「アジャイルテロリスト」と呼び、「アジャイルは宗教である」というキャッチコピーでアジャイルの布教に努めていたと言う。

話の流れの中、突然「皆でアジャイルの正しい発音を言ってみましょう」と言ったかと思うと、「あ~~~~~~じゃいる」と高く遠くまで響く声を出し、皆を引き付けた。そして、その後に起こったのが冒頭に書いた大合唱である。
この演出により、会場の雰囲気が一気に和らいだのは言うまでもなかった。

 

■アジャイル開発の概要

まずは、アジャイル開発が関わる「開発プロセスの歴史」ついての説明。

  • 【黎明期】
    特に開発の手法なども確立されておらず、納期オーバー、低品質、無計画であることも少なくなかった。
    ただし、試行錯誤しやすい頃であった。
  • 【計画主導/先行型設計】(いわゆるウォーターフォール型)
    まず要求を決め設計を行い、計画を立てた上で開発を行うという一連の流れを確立。
    ただし、後工程での変更には弱い開発スタイルであった。
  • 【適応型/進化型設計】(いわゆるアジャイル)
    計画の見直し・変更に対し、ソフトウェアを柔軟に適応・変化させていく開発スタイル。
    短期間に区切られた「計画/開発/受け入れ」のプロセスを何度も繰り返す。

アジャイル開発は特に「変更」に対して強く、変更が発生しやすい開発に特に向いている。まずは全体のリリース計画を立て、後は特定期間(例:2週間)で区切った繰り返しごとに、「計画→開発→ふりかえり/レビュー」を実施すると言った流れで開発を進めていく。
アジャイル開発のメリットを説きつつも、ウォーターフォール型開発との住み分けについて双方のメリットを述べた上で解説していた点が特に印象に残った。

 

■アジャイル開発 企業導入のポイント

そして、話題は今回の本質でもある「組織としてアジャイル開発を導入するポイント」へ。
牛尾さんは、「アジャイル開発を企業に導入するにあたり、一番難しい事は何か?」という問いに対して「自分がやるわけではない」点にある、と答えた。

「人に何かをやらせる」ことは難しい。組織導入の場合、まったく興味のない人にもやってもらう必要がある。人はそもそも「自分のやりたい事しかしないものである」という、とてもシンプルな理由によるものだ。

午前中にあったLinda Risingさんの講演を例に出し、

「生死に関わるような問題があり、生活習慣を改善しなければ死んでしまうような状況にあったとしても、実際に生活を変える人間は全体の10%程度である」という話があった。それを前提とした場合、「アジャイル開発の実践」はそもそも生死に関わるようなことでもないので、「やれ」「考えを変えろ」と言われたところで実際に変わる人は誰もいない。

ということを説明した。
確かに、これまでとは異なる手段をトップダウンで提示された場合には、私でもまずは構えてしまうであろう。100%その手段を受け入れ、行動に移すためにはきっと時間がかかってしまう。
では、どうすれば「組織立ったアジャイル開発」を「未経験の人に実行させる」ことができるのだろうか?

 

■アジャイル導入の秘密

「組織立ったアジャイル導入」を推し進めるための手順として、大きく以下の3ステップが提示された。

  1. ステップ1:不安を取り除くこと
    • 導入しようとする本人でさえ不安。やろうと思っていない周りの人はもっと不安。
    • だからこそ、周囲の関係者の不安を取り除くことが大事である。
  2. ステップ2:「できる」と思えること
    • 「チーム」「マネージャー」「経営者」が共に「これできるやん!」と思える状態をつくる。
  3. ステップ3:「やりたい」と思えること
    • 経営者を含め、周囲の関係者が「やりたい」と思える状態をつくる。

その上で牛尾さんは「人は、人に言う事を聞かせることはできない」ということを再度強調し、「相手がやりたくなる状態をつくること」が最終的に重要視するポイントであると説明した。組織がこの状態になれば、高額なコンサルタントを導入せずとも、チームが自ら成長する状態をつくることができるのだと言う。

そして、上記の3ステップを進めるための具体的な説明へと進んでいく。

 

■ステップ1:不安を取り除く

取り除く対象となる不安はさまざまだが、例えば以下のようなものだ。

  • オーナー:「アジャイルの詳細は分からない」「コストはどの程度か」「効果はどれくらいか」
  • マネージャー:「失敗を避けたい」「今までのプロセスで上手く行くのでは?」「マネージャー不要論」
  • 開発チーム:「うまくいくのか?」「なぜやる必要があるのか?」
  • その他:人事部(評価に対する不安)、開発標準グループ(開発標準の変更に対する不安)など。

こういった様々な不安に対して、アジャイル導入チームは対処をしていく必要がある。

 

■ステップ2:「やりたい」と思えること

関係者に「やりたい」と思わせるために「アジャイル導入チーム」がおこなう具体的手段として、牛尾さんは以下の手順を提示した。

手順1:心づくり

  • 「アジャイル導入」を目的に考えず、真の目的(生産性向上/内製化等)を明確にしておく。
  • 場合によってはアジャイルだけでは達成できないこともあるので、それ以外にも視野を向ける。
  • 「自分のため」ではなく「相手のため」に仕事をしているかを意識する。
  • アジャイル導入チーム自体は「アジャイル」ありきで行動しない。
  • 一番大事なのは「相手を心から信頼すること」である。相手の信頼を得るにはまず自分から。

確かに、「手段が目的化」してしまうと、導入しようとしている自分自身が間違った方向に進んだり、変に手段に固執してしまうような事態も考えられる。この「マインド」の部分は本当に重要だ。

 

手順2:相手の理解

  • 相手を信頼し、相手の価値観を理解する。特に、「アジャイルを導入することで相手が知りたいと考えている事」を理解する。
  • 牛尾さんが営業テクニックから学んだ効果的な質問としては、「もっとも重要視する事は何ですか?」という問いだと言う。例えば「楽しくやりたい!」と言う人に対しては楽しくやるためのメソッドをいろいろと提供し、「儲かる事にしか興味がない」人に対しては、コスト削減に関する事例の話をする、といった具合だ。
  • そして、相手の価値観を理解したら、相手の興味について相手の言葉で話すことが重要だという説明があった。

この「相手が興味を持っている部分に対してのメリットを説く」という部分は、私自身も上司と話をする場であまり実行できていない点である。どうしても、自分自身の価値観・自分自身へのメリットを説明する意識が先行してしまうので、この癖はなんとかしていきたい。

 

手順3:レクチャ&カスタマイズ

  • 相手の知りたいと思う内容を、相手の言葉で説明することが重要。
    例えば、オーナーに対しては「導入のメリット」や「目的の達成状況」を、マネージャーに対しては「チームのマネジメント方法」や「具体的なトレードオフ」、開発チームには「アジャイルの導入理由」や「具体的な進め方」などである。
  • また、「アジャイル導入の成果表」を用いて、具体的な成果を先に見せ、その後にプラクティスを説明するようなことも行っているとのことだった。
  • さらには、マニュアル通りのプラクティスを押し付けるのではなく、そのチーム・人に合った手段/ツールを臨機応変に選択/変更する事も重要であるということだ。(これはアジャイル的な対応が出来そう)

 

手順4:導入計画/準備

  • これは「アジャイル導入活動」自体の計画を立てる事を意味する。例えば3ヵ年計画。
  • ロケットスタート超重要。イテレーションがスタートする前に、環境やツールを準備しレクチャーする。スタートダッシュが上手くいけば、後は皆が「自分から工夫しだす」状況をつくるようになる。

 

手順5:導入/評価/展開

  • 早めに失敗して成功するということを事前に広めておく。
  • 評価については、あらかじめ計画しておく。成功については、「会社」として評価する。
    実際にアジャイルを導入したプロジェクトの関係者皆が「オレたちのやり方が上手くいったぞ」と思える状況をつくれると、どんどん「やりたい人」増えていくのだという。

確かに、そうして「やりたい人」が増えることによって、組織もさらに良い方向に進む、いわゆる「正のスパイラル」が実現できるのだなぁ。
そして、このプロセスは何も「アジャイル導入コンサルタント」だけに限らず、現場主導でアジャイルを導入してみようと日々努力を続けているエンジニアの我々にとっても、とても良い道しるべになると感じた。

アジャイル導入コンサルタントとしての商売のネタを惜しみなく披露していただけた牛尾さん、ありがとうございました!


– 公認レポーター:矢島 卓 (DevLOVE) –

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