• 著者:遠藤秀紀
  • 発行所:講談社
  • 価格:720円+税
  • お薦め度:★★★★☆(★5つが最高)

概要

解剖に魅せられた男の考え方と生き方。ぐいぐいと切り込んでくる。

頭の中で解剖を進める私を支えてくれるのは、動物遺体に接した経験の量、脊椎動物の五億年の進化を俯瞰できる論理性、そして、機械を設計する人にも通じるかもしれない「形」を評するセンスだ。(P14)

ここまで来て、やっと皆さんに解剖を語る時間になった。逆にいうとここまでは、学問以前に十分に知っておかねばならない。遺体現場で学者たちが当然育んでおくべき人生観であり、学問観であり、価値観である。(P23)

現場のエピソードも豊富である。

(海外の博物館へ出張し)、掌サイズのサルの骨を二百個測るとしよう。一個の骨について四十箇所にノギスを当てていくとする。おそらく計測をすべて終えるには連日連夜仕事を続けても、半月くらいはかかるだろうか。日本人が皆で押し寄せる観光名所を遠く窓外に見やりつつ、遺体の部屋にこもりっきりで、四六時中ノギスを手に骨と格闘を繰り広げる。骨の長さを測ろうと、ステンレス製のつまみに指の腹を引っ掛けて、ノギスの目盛りを往復させること、連日数知れず。帰国時に残されるのは、右手の親指の内側に出来る通称「ノギスだこ」。そして、八千個の数字だ。(P144)

私がラクダの全身について詳細な解剖を行ったのは、内モンゴルでの現地調査のときだ。住民に解体される個体を手に入れて解剖に専念したのだが、少しの間目を離すと、土地の人々が、私の大事な解剖体から、筋肉や内臓を晩のおかずにと、勝手に切り取って持っていってしまうのである。だが、私もある程度は、笑って見過ごすことにした。私は研究し、モンゴルの民は食事を作る。それでいいのだ。(P177)

目次

  • 第一章 時々刻々遺体あり
  • 第二章 遺体、未来を歩む
  • 第三章 硬い遺体
  • 第四章 軟らかい遺体
  • 第五章 遺体科学のスタートライン

お薦め度

★★★★☆(★5つが最高)

遺体は痛みを感じない。だから著者は大胆にメスをふるうのだろう。

より真っ直ぐ、より純粋に真実に近づくために。

著者の文章も、真っ直ぐで純粋だ。純粋すぎる。

柴田 浩太郎 2011.1.13

富士通株式会社 柴田浩太郎(SHIBATA Kohtaro)

社内プロジェクトマネジメント研修の企画・開発・講師・運営を担当。食べ物は、お好み焼き、たこ焼き、焼きソバなどソース系全般を好む。

※このコーナーはこうたろうさんが知人宛にメール配信されている図書紹介を許可をいただいて掲載しているものです。