Agile Japan 2016 セッションD-2

本セッションは、新しく触れた事業会社の文化に戸惑いながらも進むエンジニアの高橋氏と、社内にいなかったスクラムマスターという新しい役割でスタートした西村氏の経験が赤裸々に語られた「アジャイル奮闘記」にふさわしい内容でした。
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目指すのは「アジャイルな組織」

登壇した高橋氏と西村氏は、それぞれ昨年の6月と11月にリクルートジョブズに入社しました。二人が目指したのは「アジャイルな組織をつくる」こと。ここで言うアジャイルな組織とは「仮説、検証をすばやく回せる組織」のことです。当時のリクルートジョブズは、仮説を立てるのはうまいのですが、検証がうまくできていないように感じたそうです。

アジャイルな組織を目指すために、「高頻度リリース」「リーンな組織」、「決めたらすぐやる」の3つを意識しました。すばやくリリースし、そこから得たフィードバックをもとに新しいものを取り入れたり、無駄をそぎ落としたりできる体制を築こうとしたのです。

自分にとって印象的だったのは、3つ目の「決めたらすぐやる」です。
リクルートジョブズでは、開発をベンダーに依頼することが多く、企画が立ち上がってから開発が始まるまでにはかなりの時間を要していました。また、依頼するベンダーの状況に左右されやすく、やりたいものをすぐに始めることが困難でした。社内では「時間がかかります」と言うことが多かったので、優先度が高いものをすぐやり始める姿を目指したとのことでした。
自分が所属するのは事業会社ではありませんが、企画と開発とで部署が分かれており、同じような課題を抱えています。

レガシー化との闘い、ナレッジ不足の壁

高橋氏がリクルートジョブズに入社した頃の印象は「the 事業会社」。そう感じた理由は「ToBe指向であること」「決断が早いこと」「調整事が多いこと」の3つです。また内製部隊がほとんどいなかったため、企画は得意ですが、つくるのは得意ではなかったそうです。
そんな状況下で社内のシステムは、刻々と進むレガシー化と闘っていました。一番古いシステムは10年ほど稼働しており、「リリース頻度の長期化」「バグの発生」「社内のナレッジ不足」といった問題を抱えていました。

高橋氏が特に問題と感じたのは「社内(社員)のナレッジ不足」です。開発を他社に依頼しているため社員にナレッジが溜まらず、システム的なノウハウが不足していました。現在のシステムが、なぜそういう動きをしているわからず、判断の妨げになっていたそうです。

内製化に向けた挑戦

そのような状況を変えるために内製開発に力を入れ始めました。西村氏が入社したのは、まさにそのようなときでした。
西村氏の入社当時は内製部隊がほとんどいなかったため、エンジニアはもとより、スクラムマスターを評価するしくみもありませんでした。内製開発を進めるにはエンジニアの適正評価が不可欠と考え、まず、エンジニアの評価制度の整備に取り組みました。これは西村氏の目指す「キャリアパスにスクラムマスターがある」を実現する道のりでもありました。

今では、エンジニアのためのキャリアパスである「スクラムディベロッパー」だけでなく、エンジニアが開発に集中するために欠かせない「スクラムマスター」のキャリアパスも整備されています。併せて、認定スクラムマスター(CSM)認定スクラムプロダクトオーナー(CSPO)といった資格取得を通した知識の習得にも力を入れました。

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こうしてスクラムを使った内製開発の準備は着々と整っていきました。次に必要なのは実績です。
そんな折、西村氏の参加した短納期の内製開発プロジェクトが成功しました。高橋氏は、ここから徐々にスケールアップすることを想定していましたが、次のプロジェクトは主要メディアの基盤移行という超ビッグプロジェクトでした。

「自分たちでつくろう!」のマインドセットを持つ

いきなりの巨大プロジェクト、加えて新基盤、新技術、新メンバーと多くの「新」を抱えた船出となりました。混沌とした状況の中で、まず取り組んだのは「自分たちでつくろう!」というマインドセットを持つことでした。
今まではトラブルが発生すると開発ベンダーがサポートしてくれましたが、内製となるとそうはいきません。運用も含め自分たちで責任を持つとはどういうことか、そして、自分たちでシステム開発をハンドリングできるとビジネスのメリットになることを伝えていきました。

はじめてだからこそスクラム

自分たちでつくるとはどういうことかを伝えていく中で、プロジェクトに魅力を感じ新たに加わるメンバーも現れました。
既存メンバーを含め新人が多かったので、新人のブートを行いました。徒弟制度(ペアプロ)でのスキル取得、スキルマップをつくり不足しているスキルの見える化を実施しました。

そして、チーム運営がはじめてだからこそスクラムを採用しました。自分たちができるかわからないくらい大きいものを開発するため、無理に計画を立てるより、少しずつ計画を立てながら検証していく方法を取ったそうです。
また、厳密なスクラムではなく、朝会、ふりかえり、タスクの見える化などいくつかの要素のみを取り入れました。

深まるエンジニアリングへの理解

試行錯誤しながら取り組んでいましたが、方針変更でプロジェクトはなくなってしまいました。予算オーバーと教育成果のアピールが不十分だったことが原因ではないかとのことでした。「完全内製化に伴う人件費高騰に目をつむってまで、今回のプロジェクトを推進する必要があるのか」といった声もあったそうです。

結果的に失敗に終わりましたが、よかった点もありました。

  • タスクを見える化したことで、助け合う雰囲気が生まれた
  • 徒弟制度(ペアプロ)の導入で、弟子側のモチベーションに合わせて常によいものを提供できた
  • ベンダーに任せっきりで自分たちで考える前例がなかったのが、自分たちで考えて対応できた
  • 要求する側のエンジニアリングへの理解が深まり、なぜ無茶な要求なのかが伝わるようになった

要求する側のエンジニアリングへの理解が深まったというのは、うらやましいと思いました。自分の現場では、機能や日程に無茶な要求が出ることがあり、なぜ無茶なのかが伝わらないこともあります。特に日程は、タスクがあふれている現状を見せても、単純に「要員を増やせばできる」と捉えられてしまいます。要員を増やしても、必要な技術を持ち、チームの雰囲気に合う人でなければ効果は出にくいと思いますが、そういった現場の空気感が伝わるのは大きいことだと感じました。

大切なのはエンジニアと事業の歩み寄り

最後に、高橋氏、西村氏が総括を述べました。高橋氏からは、エンジニアから見たステップアップと事業から見たステップアップとでは「ずれ」があるという話でした。どちらがよいか悪いかではなく、両者をうまくすり合わせるとよいとのことでした。
西村氏からは、変化に適応できる形を目指していた自分たちが、実は変化に適応できていなかったという話でした。新しい環境に身を置いたにも関わらず、自分のこれまでのやり方を通そうとしてしまった、新しい環境の文化や考え方を取り入れて進めないといけないとのことでした。

全体を通して、エンジニアと非エンジニアの間で生じる認識の「ずれ」に対する奮闘が印象的でした。同じような「ずれ」を感じている方は多いと思いますが、「100%わかり合えない」とどこかで線を引いている気がします。今回のセッションでは、内製開発を通じて非エンジニアがエンジニアに歩み寄り、お互いの理解が少しずつ深まってきていると感じました。

自分の現場でも、まずは歩み寄りの気持ちを持って取り組んでいきたいと思います。


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