企業変革のための「要求開発」セミナー開催!
―要求開発でSI企業はどう変わるのか、現場と経営者の声を聞く

「要求開発」をベースにした企業改革手法を公開

2009年9月30日(火)に東京銀座で「企業変革のための『要求開発』セミナー」が開催されました。同セミナーは「要求開発」による企業改革を推進する株式会社ニッポンダイナミックシステムズ(NDS)の主催で行われ、平日夜にも関わらず多数の参加者を集めて行われました。

NDSは要求開発アライアンスの萩本順三氏のサポートを受けて積極的な企業改革に取り組むSI企業です。本セミナーは、萩本氏による講演とNDSで要求開発推進を担当する荒井康氏の講演、そして要求開発の先行部隊として活躍中のNDS社員の方々を交えたパネルディスカッションという盛りだくさんの内容で進行し、要求開発を通じた企業改革のノウハウが一挙に公開されました。

要求開発とは

本要求開発セミナーは萩本による要求開発の紹介から始まりました。萩本氏は要求開発アライアンスの創立メンバーで、現在は匠BusinessPlaceの代表として要求開発の普及啓蒙活動を続けています。萩本氏は、要求開発を「正しい要求を導くための合意形成活動」と位置づけ、要求は最初からユーザの中にあるのではなく、関係者を交えながらともに創り上げていくものであることを力説しました。

 

要求開発のコアになる考え方が「コタツモデル」です。このモデルは、ビジネス価値のあるシステムを開発するには、経営者・管理者、業務担当者、システム開発者、それぞれが1つのコタツを囲む形で膝をつき合わせて話し合っていく過程が不可欠であることを示しています。誰かがコタツを離れていたり、横を向いていたり、コタツを独り占めしていたり、ということでは役に立つシステム開発は生まれません。関係者が仲良く1つのコタツを囲んで意見を交換することが重要なのです。

正しい「システム要求」を作り出すには、その前段階にある「業務要求」「戦略要求」「ビジョン」が関係者の間で共有されている必要があります。またこれら3つの要求は互いにつながっている必要があります。ビジョンの視点で見ると戦略要求は手段であり、戦略要求の視点から見ると業務要求は手段です。同様に業務要求の視点から見るとシステム要求は手段です。

  • ビジョン(目的)→戦略要求(手段)
  • 戦略要求(目的)→業務要求(手段)
  • 業務要求(目的)→システム要求(手段)

このように、ビジョンからシステム要求に至る目的と手段が正しくつながっている必要があるのです。つまるところ、システム要求はビジョンから導き出されているものでなければならないのです。要求開発では、早い段階でビジョンからシステム要求に至るトレーサビリティを構築し、確実にユーザの役に立つシステム開発を行うことができます。

要求開発から生まれた「匠メソッド」

萩本氏はこの要求開発のしくみを活用して、IT企業が「真のビジネスパートナー」に変革するためのサポートをしています。コタツモデルにより関係者が意見を交換する場を設け、ビジョンからシステム要求に至る、目的(What)と手段(How)の連鎖を丁寧に組み上げていくのが匠メソッドです。

匠メソッドでは、実際にシステム開発で達成される結果イメージを共有するためには、3ステップの見える化を行います。

  • ステップ1:理解のための見える化
  • ステップ2:問題点・改善点・効果点がわかる見える化
  • ステップ3:覚悟のための見える化

表面的な業務の理解(ステップ1)に留まらず、問題点・改善点・効果点(ステップ2)そして覚悟(ステップ3)までを関係者の間で共有するところがポイントです。また、匠メソッドでは経営者、管理者、社員のすべてが、「技」だけでなく、「人」「心」の面でも成長していく機会を用意します。匠メソッドによって強化された個人、組織から生まれてくる新たなビジョンは他の企業にはない独自の強みとなり、企業ブランディングの基礎となります。

匠メソッドのベースにあるのは人を信じ、人の力を伸ばす考え方にあるそうです。萩本氏によると、ITエンジニアは、

  • 見える化(モデル)を理解している
  • プロセスを理解している
  • プロジェクトを経験している
  • ロジカルに物事を考えている

という他の職種にはない強みを持っています。匠メソッドはこれらの強みを引き出し、SI企業をビジネス的な魅力のある組織に変革していくのです。

ニッポンダイナミックシステムズはなぜ「要求開発」を採用したのか

実際に要求開発を企業変革のツールとして活用しているNDSは、要求開発をどのように受け止めているのでしょうか。同社担当者の荒井康氏が講演を行いました。NDSは今年で40周年を迎える200名規模のSI企業で、業務系、制御系に渡るシステム開発、パッケージ販売、ASPなどを広く手がけています。

荒井氏によると昨今の中小IT業界は、

  • システムの大型化・複雑化
  • 開発案件の減少
  • 海外開発案件の増大

という3つの波を受けているそうです。NDSは、

  • 多様でトータルなシステム開発経験を持つこと
  • トータルなシステム開発が可能なこと

が強みだったものの、昨今ではそれが逆に特徴のなさと写ることも増えているそうです。また営業力、提案力、プロジェクト推進力の弱さや、ビジネス視点でシステムを捉える力のなさ、売り上げの頭打ち、リーダー層の不足、コストパフォーマンスの不足といった問題も抱えていました。

こうした問題を打破するためには、本当に価値のあるシステムを開発する必要があり、そのためには上流からシステム開発を手がける必要があるという考えに至りました。そのためのツールとして要求開発が選ばれたそうです。要求開発には同社が得意とするIT技術をスムーズにビジネス価値につなげていく力があると考えたのです。

「NDS要求開発宣言」を起草

要求開発の導入に当たってNDSは、「ビジネス展開」「企業ブランディング」「技術力強化」の3つを柱とするNDS要求開発宣言を起草し、企業変革への決意を内外に示すことからスタートしました。また、「メジャーリーガー」と呼ばれる10名ほどの選抜チームを結成し、要求開発、そして匠メソッドの集中トレーニングを開始しました。メジャーリーガー達は、中堅、若手で活躍している社員を中心に選ばれ、現業務と兼務しながら活動をしています。要求開発のスキルを身につけ、一般社員の牽引役になっていくことが期待されています。

 

また、社外活動としては、要求開発アライアンスに参加しているほか、匠Style、匠塾をはじめとするコミュニティへの社員参加を後押ししています。


NDS要求開発宣言

1.ビジネス戦略に直結したITシステムを提案する

お客様の価値を最大化するために、ビジネス戦略に直結したITシステムをデザインできるIT企業を目指します。

2.お客様と共に真の要求を開発する

我々は、「要求は存在するものではなく、開発するものである」という志を大切にし、お客様の真の要求を、お客様と共に開発していきます。

3.新たなITビジネスを開拓する

我々は、「要求開発」を武器にすることで、お客様と共に要求を開発できる新たなビジネスモデルを開拓します。

4.開発者として説明責任を果たす

開発者としての説明責任を果たすために、システムの見える化だけではなく、ビジネスの見える化に挑戦します。

5.IT技術者の価値を高める

納得感のあるエンジニアリングを追求し、ITのおもしろさ、楽しさを社内外に伝えるITの匠を目指します。


要求開発に接した社員の感想は

要求開発の基礎講座は社員全員が受講しています。受講した一般社員によると、実際の業務に使える機会がまだ乏しいことから実効性に疑問を持つ声があったものの、会社としての新しい取り組みを全社員が知ることができたことを評価したり、かつては要求開発のコアとなるコタツモデルがかつては開発現場に存在していたことを指摘するなど、おおむね好評だったようです。

集中トレーニングを受けたメジャーリーガー達の間は、演習形式によるトレーニングを評価したり、IT視点から抜け出すことの難しさ、教科書的な答えがないことの難しさを感じたり、実践できるかどうかが分かれ目という声など、さまざまな感想が得られたそうです。

荒井氏によると、要求開発教育の達成度が30%、企業ブランディングの達成率が40%、ビジネス展開の達成度が5%というのが現状だそうです。要求開発のスキルを身につけたエンジニア達の戦いはまだ始まったばかりということでしょう。

要求開発に必要なのは「会社としての覚悟」

荒井氏は要求開発に必要なこととして、「会社としての覚悟」を掲げました。要求開発の導入には相応の投資や負荷がかかりますし、経営者の理解、推進役の存在、コタツモデルの導入などが不可欠です。また、相談できる経験者として萩本氏の存在が大きかったことを付け加えました。下流中心のSI企業では、本当にビジネス視点を身につけられるかという不安があるそうです。実践によるスキルアップとモチベーションの維持のため、要求開発を学びながら使っていくための仕事作りがこれからのテーマになっていきそうです。

要求開発を実体験した有志によるパネルディスカッション「要求開発、現場からの挑戦」

 2つの講演の後は要求開発、匠メソッドの実践者達によるパネルディスカッションが行われました。登壇者は萩本氏とともにNDSの要求開発推進をサポートする匠Business Placeの牛尾剛氏、匠メソッドを実践中のケペル株式会社の坂本克也氏、そしてNDSのメジャーリーガー達です。モデレータは萩本氏です。

IT企業が真のビジネスパートナーになるために―ユーザ企業の視点から

萩本:これからのIT企業に求められることはどんなことでしょうか。ユーザ企業からケペルに転職し、要求開発の導入を進めていらっしゃる坂本さん、ご意見をお願いいたします。

坂本:私はかつてメーカーでシステムを発注をする立場だったのですが、ユーザ企業では自分ではあまり手を動かそうとしていないのが現状です。「簡単に、早く、安く!」ものを手に入れたいと感じていることがほとんどです。ユーザ企業では特にコストプレッシャーが大きいです。日々の仕事が忙しいのはユーザ企業も同様で、新しいことを勉強する余裕はないのですが、そこをIT企業さんにはがんばっていただきたいという気持ちでいます。もう1つIT企業に求めるものは、提案力です。ユーザ企業の人間は現場に入っているので周りが見えません。もっと上空から俯瞰して、課題・方向性を見つけることができるパートナーさんを求めています。さらにもう1つは、ユーザ企業のCIOが求めているのは自分の右腕だということです。つまり、不安なことを相談できる人です。ユーザはベンダーやコンサルタントに高いお金を払っており、真っ暗な闇の中で右往左往している状態ですので、全体を見渡し、うまく手を引いてあげる、そして後ろから押してあげることがIT企業に求められるのではないでしょうか。NDSさんが上流工程・要求開発を目指しているのはすばらしいことだと思います。ユーザ企業が求める人材を育成していくことで良いサイクルになっていくはずです。

萩本:ありがとうございました。

IT企業が真のビジネスパートナーになるために―IT企業の視点から

萩本:IT企業が真のビジネスパートナーになるためにはどうしたらいいのか。IT企業の視点から荒井さんお願いいたします。

荒井:手前味噌ではありますが、弊社にはシステム作りにおいてはかなりのレベルの人間が揃っていると自負しています。大手SIさんやメーカーさんと比べても遜色ないと思います。こういう人材の能力を限られた場所で使うのはもったいないと考えています。もっとビジネスチャンスを広げられれば、お客様にも自分たちにもメリットがあり、もっと互いに元気で幸せになれるのではないでしょうか。

萩本:先週沖縄のオープンソースカンファレンスに参加してきたのですが、そこでIT企業の技術力の使える範囲が狭まってきているという恐怖感の話が出ていました。私が若い頃はアセンブラで技術力を誇れましたが、今そんなことはありません。そういう時代の中、我々は一体どこに行けばいいのでしょうか。私はユーザのほうに向かっていくのがよいと思います。若い人や中堅の人にはそこで力を発揮してもらいたいです。

荒井:そうですね。エンドユーザーだけでなく、大手SIさんやメーカーさんとももっと協力できるところがあると考えています。両面から企業価値を高めていきたいです。

IT企業が真のビジネスパートナーになるために―コンサルタントの視点から

萩本:同じ質問になりますが、IT企業が真のビジネスパートナーになるためにはどうしたらいいのか、開発のできるコンサルタントとして活躍されている牛尾さんはどうお考えですか?

牛尾:ITがビジネスに向かっていくというムードは感じています、同時に逆方向のことも考えています。やはりユーザはエンジニアに新しい技術を求めています。そこを捨ててはだめだと思います。二極化するのかもしれませんが、技術を手放してしまうと保守費用がかかったりして暗黒になるでしょう。ビジネスセンスやトークが弱い人はいるかもしれませんが、そうした人が不要になるわけではありません。またもう一つ、IT業界の成熟度が上がってきたというのが今なのかもしれません。昔は中身がぐちゃぐちゃでも許されたものがそうでなくなってきています。ぐちゃぐちゃなものを作ってエンジニアと言える業界は変なのですが、少なくともそうではなくなってきていると思います。私の仲間との話で出てくるのは、最新の技術、例えば関数型言語のScalaやクラウドがあったとして、それをどうユーザのために役立てるかといった話題です。そこで自分の立ち位置はと考えるのですが、ビジネスができる人が他にいたら自分はビジネスについてはちょっとできればいいと思います。保守性の高いものを作れるのも価値、尖ったものを作れるのも価値です。ところで、私は今レガシーという車に乗っていますが、車の内部プロセスはどうでもよくて、「アクセルを踏んだときの感じがいいんだ」という、感情にいかに訴えるかが勝負だと想います。他の例としては、アップルのiPhoneは持っているだけでうれしいプロダクトです。こういう製品を作れるかどうかがその業界の成熟度でしょう。描く力と言ってもいいかもしれません。マーケティング的なセンスも必要でしょう。ディープな技術と共に、人間系、UI系、マーケティング系のスキルも必要になってきているのがトレンドだと思います。

萩本:PHPに代表される渋谷系と呼ばれる人達はビジュアルを重視したWeb開発をすることで、ユーザのビジネス価値を作り出しています。エンジニアの中にもビジネスに密着してやる人がいれば、クラウドのような世界で価値を出す人もいます。二極化が進む中で後者の人材はもしかしたらそれほど必要とされないかもしれません。いずれにしてもエンジニアに求められるものは変化してきています。しかし、エンジニアがユーザの真のビジネスパートナーになれば、決して仕事がなくなることは考えます。今のSIビジネスがだめなだけで、要求開発のアプローチで真の要求を獲得していけば、仕事はなくならないはずです。ビジョンを描いてないだけだと思います。

IT企業が真のビジネスパートナーになるために―会場から

萩本:真のビジネスパートナーになるためはどうしたらいいのか、同じ質問を会場の皆さんにしてみたいと思います。

参加者:要求開発を進める上で一番大事なのは、教育だと思います。技術より心、つまりメンタルなものです。私が大学生の頃は何のために勉強しているかわかりませんでした。私は「目的のためなら人は努力できる」という言葉が好きですなのですが、教育の過程でいかに目標と目的を持つのかが大事だと思いました。そこで1つ思ったのが、プロジェクトを短期的に考えたとき、どれくらい要求開発を取り入れることができるのかという疑問です。ユーザからの提案をすべての過程で導入できるのでしょうか。要求開発はどれくらいのスパンでものごとを考えていけばいいのでしょうか。

IT企業が真のビジネスパートナーになるために―メジャーリーガーから

萩本:実は、要求開発は一人でもできます。プロジェクトでもできます。会社でもできます。いろいろな要求開発があるのです。要求開発は手段で、要は自分たちの仕事改善の道具なのです。何のためにやっているのかが大切です。スパンは目的によって違うと思います。同じ若手のメジャーリーガーさんどうでしょうか?

中村:自分が何かをやる場合、興味や目的があると行動できます。モチベーションには上がり下がりはありますが、下がっているときにどうコントロールするか萩本さんに教えていただきました。大きな目標を持てば、日常の上がり下がりは小さいことだと感じられるようになるということなので、今実践しています。

萩本:私の場合NDSを改革することが目標ですが、もう一つIT業界を変えるということも目標にしています。高い志を持つと、ちょっとしたことではぐらつかなくなります。もう一人の自分が支えてくれているとでもいうのでしょうか。さて、要求開発をどう感じていますか?

町野:要求開発は当たり前のことかなと感じています。実際要求はもやもやしたものですから、見える化して関係者の合意を取るのが要求開発だと考えています。私はSIのベンダーから来た仕事をしていますが、その中でも見える化をしています。チームで結束を固めることができたり、安心して進めるようになります。

中村:最初はどうスタートしたらいいかわからなかったのですが、見える化やコタツモデルは昔からあったことに気づきました。目と目が合ってちゃんと会話が通る、という当たり前のことを気づいたらやらなくなっていたように思います。見える化も意識していますが、「百聞は一見にしかず」という言葉が昔からあったことに気づきました。人間はものを見ないと信用しないものです。

丸山:実際に牛尾さんと上流の要求開発に取り組んでいますが、相当苦戦しています(笑)。そもそも、感動品質とか、いいものを作ろうというのが二の次のユーザさんがいます。「これくらいやってくれればいいよ。つつがなく終わらせてほしい」という雰囲気なのです。直接は言わないのですが。ユーザはなんでもかんでも余計なものまで見える化しては困ると感じているようです。間に入っているベンダーさんはその空気を知っているので、何かしようとするとブロックがかかり、なかなか手が出せない状況です。見える化はいろいろなところで役に立つので、価値を認めてもらえないはつらいですが、自分達には意味があると感じています。見える化のおかげで今までになく業務理解が進みました。最近新しいメンバーが一人入ったのですが、プロジェクトの概要を理解してもらうのにとてつもない効果がありました。ファイリングされたドキュメントとは違う、一目でわかる資料になっています。

萩本:会場の皆さんはいかがですか?何か感じたことがあれば教えてください。

参加者:コンサルティングや開発をする中でずっと感じていることなのですが、「戦略要求」と「システム要求」の2つの要求をつなぐ「業務要求」を出すときに、かなり主観が入ってしまいます。ここを乗り越えるのが非常に難しいです。この展開をスムーズにできる力が一番求められていると思います。ここをお手伝いできると非常に楽しいと思います。

ビジネス価値を描こう、そして業界を変えよう

萩本:エンジニアはせっかくシステムを知っているのに、ビジネス価値を描いていません。エンジニアリングと言えば構築する力ですが、今は描く力まで含めて考えないとビジネスエンジニアリングになっていきません。先ほどの車の例でありましたが、車の性能とは別の感覚的な部分は数字にできません。エンジンの性能とは別の部分を「走る喜び」などという言葉に変えてブランディングをしている自動車メーカーもあります。徹底的な拘りから作られたエンジンと、その特徴を「走る喜び」という言葉で描くことで、クルマの性能とは別の次元のよさを強調することで、それを価値に転換しているのです。エンジニアにはエンジニアリングを通じて、ビジネスやソフトウェアのビジョンを描く必要があります。そして、そこには、ちょっとした勇気、チャレンジ精神が必要となります。 

丸山:昔起業しようと思って「日経ビジネス」誌を買っていたことがあるのですが、ビジネススタイルと言いますか、こういうビジネスで儲けているのかと常に考えながら読んでいました。ユーザと一緒にいいビジネスを考えながらサービスを作っていけたらおもしろいと思います。そういう方向を目指してみたいです。

萩本:坂本さん、ユーザ企業にいらした観点から何かアドバイスはありませんか?

坂本:「自分はできる」と思い込むことが大事です!一番大切なところです。できないことでもできると言っちゃって、自分を追い込み、どうやるかを真剣に考えるのです。技術者魂は非常に大切だと思います。魂がなくなると箱だけになってしまって、物事は動きません。それに加えてハートや人間力のようなヒューマンスキルが、かけ算で必要になってきます。

萩本:平山社長、トップとしての思いはいかがですか?

平山社長:こんにちは、NDS社長の平山です。今年政権交代が起きて、世間ではいろんなことができそうな機運が生まれてきています。もちろん本当にうまくいくかどうかはわかりません。わくわくかもしれないし、ひやひやかもしれませんが、まさに今NDSにも同じことが起きています。政権交代なら社長を変わらないといけませんが(笑)。NDSの中での常識では実現できなかったことが、できるような気がしています。私のなりに考える真のパートナーとは、自己解決型のサービスを提供できることです。お客様が自分で解決できるようにする、そのお手伝いをするのが最高のパートナーです。当然システム構築についてはプロでなければなりません。上流については「我々が何かする」と言うよりは、お客様が自分で解決するための手助けをしていくことが一番の満足を生むと考えています。そうした想いが、要求開発とぴったり合いました。今年要求開発を導入したばかりで、まだ半年なのですが、その成果に衝撃を受けています。今まで「会社を変えよう」とは言っても、「業界を変えよう」とまでは言っていませんでした。最終的には業界を変えたいということを言えるようになってきています。なぜなら、自分達がやっていけばできる気がしています。今とてもおもしろく、手応えを感じています。要求開発は業界変革を実現するための「How」だと思っています。

萩本:本日はリコーITソリューションズで私を技術顧問として迎え入れてくださった高田元社長にお越しいただいていますが、高田さんはNDSさんの取り組みをどう思われますか?

高田:今の議論をうれしくわくわくしながら伺っていました。私は「真のパートナー」という言葉を聞くとドキっとします。私が社長だった頃、方針説明でよく使っていた言葉だからです。リコーITソリューションズの統合前に各地に点在している各社・拠点を回ったとき、統合に反対している人がいて、「自分達のやってきたことに自負がある。お客様の言うとおりにやってきた。」と言うのです。それが当時の価値観です。そこではたと思って、その価値観をどう変えようかと考えました。それが「真のパートナー」の起点でした。私も昔はエンジニアだったので、作ることに喜びを感じていました。昔は作るターゲットが明確でしたから、問題は「どう実現するか」でした。そこでは手段が価値でした。ところが今は違って、お客様の抱える経営課題をどう解決するか、ということが価値です。今は何をやったらいいのか、そして目的は何かということが悩みなのです。弊社でも千人月規模の大きい基幹システム案件があり、なかなか要件が出ず、どうしたんだということがありました。そういうときに萩本さんの要求開発に出会ったのです。私は「要求開発とは何だ?要求は出てきたものを定義するものではないのか。」と思っていました。「要求は最初からあるものではない。」と聞いて、自分達の間違に気づいたのが、お付き合いの始まりです。エンジニアの発想を手段志向から目的志向に変え、待ちから一緒に作る攻めの姿勢に転じ、そして顧客側にいかに進んでいくかというスタンスの転換を行いました。要求開発はそのための手段になりました。要求開発を実際に行ってみてわかったのですが、今まで明らかに不備だったのか、こんなに変わるものかと思えるくらいエンジニアの意識が変わってきました。弊社では要求開発が非常に大きい意味を持っています。本日は本当にいいお話しをどうもありがとうございました。改めて我々の取り組みが間違っていないことを感じましたし、NDSさんのお話しを伺って新しい可能性を感じました。これからも新しい動きに関心を持っていきたいです。我々の励みにもなりますので、よろしくお願いいたします。

要求開発による企業改革には「覚悟」が大事

萩本:社員の力、モチベーション、意識が変われば生産性は数倍上がります。常識が足かせになっているのですが、常識を変えるには勇気が必要で、「できるような気になること」が一つのテクニックです。ではここで、メジャーリーガーの方々に一言ずつ頂こうと思います。NDSでは一度だけメジャーリーガーの皆さんを叱ったことがあります。どういうことかと言いますと、「そういう気持ちでやるなら何も変わらない。」と覚悟を迫ったことがあるのです。まだ覚悟が足りていない部分もあるかもしれませんが、ここで今の思いを宣言していただきたいと思います。池田さんからどうぞ。

池田:私の今の仕事は下流なのですが、要求開発の話を聞いたときに、これは上流下流問わず導入できると思いました。今のシステムをもっと良いものにするために要求開発を使っているのですが、実際に現場で使っていけば自ずと要求開発のスキルが身につき、上流をやるときもこのスキルを発揮できるのではと思っています。萩本さんに教えていただいている内容は、全く知らなかったことではありませんでしたが(お客様の本当の意図をつかむ、目的を理解する、とか)、名前を付けたり意識したりはしていませんでした。これからはちゃんと計画立てて意識的に学んでいくことで、よりステップアップできると考えています。

中村:メジャーリーガーと名乗るのはまだまだ恥ずかしいのですが、この名前で活躍できるようになりたいです。IT業界の今後の開発のあり方を変えたいです。それが大きな目標です。どこかで見かけたら「メジャーリーガー」と呼んでください(笑)。

町野:萩本さんに怒られた話は覚えていません(笑)。「他人は変えられないが、自分は変えられる」という話は覚えています。他の人にやらせるのではなく、自分から始めて周りを巻き込んでいく。萩本さんはいつまでもいてくださるわけではないので、結局は自分達が変わらないといけないと思っています。今は自分の職場で学んだことは使ってみる、自分が動く、そういうことを心がけています。

丸山:エンジニアの心構えとして「ITの匠5ヶ条」というものを萩本さんが提唱されているのですが、まだまだ追いついていません。少しでも実践して、NDSの匠一号になることを目指します。

荒井:本当に変わらないといけないのはマネジメント層です。今までシステム開発だけやってきましたが、要求開発を進めるためにはマネジメント層が考えを変えていかないと先細りになります。営業も含めて体質を変えないと要求開発は根付きません。お金の頂き方から考えを改めないといけないと覚悟しています。

萩本:NDS応援団の牛尾さん、アドバイスをお願いします。

牛尾:現実と理想は違うと思います。結局どれだけ効果が出るかが勝負です。応援団として理想はありますが、100%要求開発を適用できない場面でもそこにいかに向かっていけるか、そこをがんばっていきたいです。ひどい目にあったりすることもあるかもしれませんが、そこを乗り越えて(笑)、NDSさんと新たなビジネスチャンスを作り出し、IT業界が儲かるように、そしてみんながIT業界に行きたくなるようにしていきたいです。

坂本:IT業界が7K、3Kと言われる中で、若い人があまりIT業界を希望してくれない寂しい状況ですが、もっと明るく元気に活性化していきたいです。今までの延長ではなく、ゼロベースでリセットしていく勇気、そして目標があれば成長していけると思います。

萩本:皆さんいかがでしたでしょうか。会場の皆さんには今回のセミナーから何か1つでも2つでも持ち帰っていただければと思います。ご来場をどうもありがとうございました。

「要求開発」セミナーに参加して

EM ZERO編集部では「要求開発」セミナーに参加して、イベントを会社の社員の方々が中心となって手作りで主体的に運営している姿を目にしました。もう一人の主役は、裏方で運営していたNDS社員の皆さんだったのではと感じています。要求開発は古き良き日本企業の文化と、新しいビジネスを切り開いていくフロンティア精神のハイブリッドだと思います。そこでキーになるのが「技術力」です。システム開発で堅実な実績を誇るNDSが要求開発、そして匠メソッドと結びつくことで、IT業界に新しい風が吹き込むことを期待します。

写真撮影/執筆 : EM ZERO編集部 編集長  野口 隆史  2009.10.31公開